コラム

ますます許容されていく「監視」への違和感

2016年08月18日(木)18時45分

 何よりその後に発表された県警の談話が酷い。「他人が管理する敷地内に無断で入ったことは不適切な行為であり、関係者の皆様におわび申し上げます」。この談話には、人をみだりに監視してしまったことへの言及が一切ない。大分の選挙区では、野党候補と与党候補がせめぎ合っており、実際にその結果を確認しても、民進党の現職候補がわずか1090票差で競り勝っている。たとえ些末な案件であっても、相手にとってネガティブな事案として撒ける何かを"盗撮"できれば、ひっくり返せたかもしれない票差だった。カメラ設置の理由について、県警は「個別の容疑事案で特定の対象者の動向を把握するため」(朝日新聞・8月4日)としたが、ちっとも説明になっていない。

 大分県警ではこの4月から「大分県街頭防犯カメラ設置促進事業」として、「新たに街頭防犯カメラを設置する自治会等に対し、防犯カメラ設置費用の一部を補助する事業」を行なっている。上限は1団体につき50万円で、対象経費の2分の1を補助するという。事業を行うにあたって作成した「防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン ~プライバシーの保護に配慮した防犯カメラの運用~」を読むと、「防犯カメラの設置が、犯罪の防止に有用であることは多くの方々が認識しています。しかし、その一方で、知らないうちに自分の姿が撮影され、目的外に利用されること等に不安を感じる県民の方もいます」という、今件を踏まえれば突っ込みどころしかない文章が見つかる。「誰にでもわかるように、撮影対象区域内、または付近の見やすい場所に防犯カメラを設置していること、及び設置者の名称を表示するものとします」との記載もあるが、お作りになった皆々様一同で熟読し直すことをおススメしたい。

 解せないのは、これだけの逸脱した行動について、事の詳細を説明せずに、「個別の容疑事案で特定の対象者の動向」を追っていたとするだけで済まされたこと。その後、カメラを設置した署員らが書類送検されたものの、トカゲの尻尾切りに思えて仕方ない。人権侵害そのものの行動が、ともすれば、お得意の「怪しいんだからしょうがない」方面の世相と親和性を高めてしまう。「人権という美名の下に犯罪が横行している」とした山東氏の発言に代表されるように、権力を持つ側が「監視」の条件や強弱を自由気ままにコントロールしようとしていることに、無頓着すぎはしないだろうか。

 今年5月には、刑事司法改革関連法が成立し、通信傍受の拡大が盛り込まれた。捜査機関が電話やメールを傍受できる対象はこれまで4種類(薬物、銃器、組織的殺人、集団密航)のみだったが、新たに9種類ものカテゴリが追加された。その9種類が「窃盗、詐欺、殺人、傷害、放火、誘拐、監禁、爆発物、児童ポルノ」である。これらの犯罪に繋がる可能性があると判断すれば通信傍受が可能となる。こうして監視する権限の拡大が甚だしい現在なのに、相模原事件や県警盗撮事件後の反応を見ていると、ますます「○○の場合においては、監視されても仕方ない」という風土がジワジワ広がってきているように思えてならない。こういったなし崩しを許容したくない。

プロフィール

武田砂鉄

<Twitter:@takedasatetsu>
1982年生まれ。ライター。大学卒業後、出版社の書籍編集を経てフリーに。「cakes」「CINRA.NET」「SPA!」等多数の媒体で連載を持つ。その他、雑誌・ウェブ媒体への寄稿も多数。著書『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。新著に『芸能人寛容論:テレビの中のわだかまり』(青弓社刊)。(公式サイト:http://www.t-satetsu.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、中国副首相と15─16日にパリで会談 

ワールド

イランの加州攻撃警告は未確認情報、脅威存在せず=米

ビジネス

トルコ中銀、政策金利37%に据え置き 燃料価格上昇

ワールド

紅海の米空母で火災発生、2人負傷 戦闘とは関連せず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車整備は収入増、公認会計士・税理士は収入減
  • 3
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 4
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 5
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 6
    2万歩でも疲れない? ディズニー・ユニバで足が痛く…
  • 7
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 8
    ハメネイ師死亡が引き起こす「影の戦争」――中東外で…
  • 9
    ヘンリー王子夫妻が4月に豪州訪問へ、メーガン妃は女…
  • 10
    ノルウェーに続いてカナダでも...またしても在外米領…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story