コラム

メドベージェフは後継本命から後退...プーチンが絶大な信頼を置く「影の実力者」とは

2022年10月19日(水)17時22分

1. セルゲイ・キリエンコ(大統領府第1副長官)

221018p18_wcp20.JPG

ロスアトムのトップを務めていた時代のキリエンコ(2014年10月) Benoit Tessier-Reuters

ここで問題。史上最年少でロシアの首相になったのは誰?

答えは私も教鞭を執ったロシア国家経済・公共政策大統領アカデミーの卒業生で、1998年4月に35歳で首相に就任したキリエンコ(60)だ。首相として大規模な経済改革に挑むも失敗し、政府は同年8月にデフォルト(債務不履行)を宣言した。

責任を取って首相を辞したキリエンコは翌99年にモスクワ市長選に出馬して敗退。だが同時に行われた議会選挙で「右派連合」を率いて、下院議員に当選した。右派連合とは、民営化を推進した実業家兼政治家のアナトリー・チュバイスを頭脳に擁する右派リベラル勢力の政党だ。

プーチンが大統領に就任してからは、出世街道を突き進んだ。沿ボルガ連邦管区の全権代表を経て国営原子力企業ロスアトムの社長を10年務め、2016年に内政を統括する大統領府第1副長官に任じられた。

ウクライナ侵攻ではルハンスク(ルガンスク)州、ドネツク州の親ロ派武装勢力との連携を担当し、占領や併合に関する任務に当たる。プロパガンダまがいのスピン報道やイメージ操作を取り仕切ってもいる。

キリエンコが陰の実力者であることに疑問の余地はない。連邦の知事を選んできたのも彼で、トゥーラやカリーニングラードの州知事は次世代の後継者として名前が上がる。

プーチンはキリエンコに絶大な信頼を置いているとされ、キリエンコも大統領に取り入るのが非常にうまい。安全保障を根拠にもっともらしい言葉を連ねてウクライナ侵攻を支持しつつ、リベラルな経済改革派としての信任も厚い。

5月には「全ロシアの母」だという赤旗を持った老婆の銅像を、ドネツク州マリウポリに建立。占領地を視察する姿からは、カメラを味方に付ける才能がうかがえる。もしウクライナ侵攻がプーチンの歴史的遺産になるなら、キリエンコは同地での巧みなPR戦略により後継者争いを一歩リードするだろう。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story