コラム

40年ぶりの「超インフレ」アメリカに暮らして

2022年06月25日(土)18時42分

3月にはワシントンのガソリン代も1ガロン5ドル以下だったが…… JOSHUA ROBERTSーREUTERS

<飛行機のチケットは4割増し、空港からのタクシー料金は3倍超......レーガン政権以来の物価高に全米が悲鳴をあげている>

アメリカが現在のような高インフレを最後に経験したのは40年以上前。私はまだ母の胎内にいた。

そして今、私が海外出張からワシントンに戻るたび、彼女は送迎の運転手役を買って出てくれる。「サム、空港からのウーバーの料金はパンデミック前は20ドルだったのに、今は70ドルよ!」と、母は言う。

私は幸いユナイテッド航空(UAL)の株主だが、さもなければ飛行機代は38%も値上がりしていた。

このコラムはバイデン大統領の自宅近くにあるビーチで休暇を過ごしながら書いている。3年ぶりにアメリカで車を運転したが、25ガロンのタンクのガソリン代が記憶にある限り初めて100ドルを超え、125ドルになった(1ガロン=5ドル)。

世論調査によれば、インフレを「非常に心配している」アメリカ人は回答者の60%、「やや心配している」が31%で、「全く心配していない」のは1%にすぎない。ほんの3カ月前まで想像もできなかった数字だ。

インフレの衝撃をさらに悪化させているのは、合理的とは言い難い心理的反応だ。例えば、私は前回アメリカに帰国したときからガソリン代が2倍になったことはよく分かっているが、それでも支出全体に占める割合は3%程度にすぎない。スターバックスやシリアル、アイスクリームには、その3倍使っているはずだ。

しかし、私の思考は先週から125ドルという記録破りのガソリン代に支配されている。アメリカ人にとってガソリン価格は特別な存在であり、脳内の「恐怖受容体」を直撃する。加えてガソリン高騰の痛みがいつ収束するか、急激な価格変動が今後どうなるのか、誰にも分からない。

しかもインフレは単なる心理的悪夢ではない。58%のアメリカ人が物価高に対処するため、貯蓄の取り崩しや借金に走っている。年収15 万~20万ドルの高所得層でも、66%が請求書の支払いに苦労しているらしい。

消費者の景気見通しは2009年以来最低だ。現在の経済状況を「良い」とする回答はわずか14%。景気が良くなるという答えは20%、悪くなるが77%。

物価はアメリカにとって2番目の大問題であり、トップの「お粗末な政府・リーダシップ」との差はわずか1㌽だ。インフレは現職の大統領にも恐怖を与えている。バイデンの支持率は大統領1期目のこの時期としては史上最低レベル。もし選挙が今あれば、共和党が上下両院を制し、バイデンはトランプ前大統領を含む共和党のどの候補にも確実に負けるだろう。

民主党は既にパニックになりかけている。今ではバイデンの再選不出馬を公然と口にする関係者が増えた。厄介なインフレに立ち向かうエネルギーがないように見える79歳の大統領から距離を置き始めたようだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    ただのニキビと「見分けるポイント」が...顔に「皮膚…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story