コラム

トランプの潔白は証明されていない......ムラー報告書12のポイント

2019年04月13日(土)14時30分

トランプは「完全かつ全面的に潔白が証明された」と宣言したが…… Kevin Lamarque-REUTERS

<これでロシアゲートの疑惑は払拭されたのか? 報告書の全文公開で問題再燃の可能性も>

「完全かつ全面的に潔白が証明された」――3月24 日、アメリカのバー司法長官がロシアゲートをめぐるロバート・ムラー特別検察官の報告書の概要を発表すると、トランプ米大統領はツイッターでそうつぶやいた。すがすがしいほどの現実の誇張と省略だ。では、ムラー報告書の現実とは何か。ここで12の最重要ポイントを挙げてみよう。

【1】仕事 ムラーは誇りを持って立派に職務をやり遂げた。この不安定な時代に、最も有能な公職者の1人が公正かつ誠実に真実を追求してくれたことに、米国民は感謝しなくてはならない。

【2】成果 ムラーの捜査は、大統領周辺に違法行為や反倫理的行動が蔓延していた実態を証明した。トランプのかつての顧問弁護士、選挙対策本部長、国家安全保障担当大統領補佐官はほぼ全員刑務所行きが決まった。37の個人と法人が起訴され、7人が罪を認めるか有罪判決を受けた。これはニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件に次ぐ2番目の多さだ。

【3】真相 トルストイの小説並みの長さの報告書をわずか4ページの概要にまとめた司法長官は、トランプを助けるためにこの地位に就いた人物だ。バーは何年も前に、大統領を司法妨害罪に問うことはできないと主張するメモを書いていた。

【4】嘘 トランプは選挙期間中も大統領になってからも、ロシアにビジネス上の関心はなかったと繰り返した。だがムラーの捜査で、モスクワに超高層ビルを建てる計画があったことが判明した。トランプはこの件のために、プーチン大統領に取り入ろうとした可能性がある。

【5】世論 今後決定的な証拠が出てくれば話は別だが、今のところ報告書への反応は政治的立場をそのまま反映したものとなっている。大統領を弾劾すべきだと考えるアメリカ人の割合は44%。この数字は大統領の支持率とおおむね同じだ。報告書は、支持率にも弾劾派の比率にもほとんど影響を与えていない。

【6】安堵 トランプ本人はこれでほっと一息つけそうだ。捜査開始から22カ月、ずっと頭の上に黒い疑惑の雲が乗っているようなものだった。トランプは元CIA長官や元大統領スタッフ、高名なジャーナリストから国家への裏切り者呼ばわりされてきたが、この手の批判は当面ストップした。

【7】民主主義 最高レベルの検察官でも、大統領が選挙で勝つために外国勢力と共謀したことを示す決定的証拠は発見できなかった。このことをアメリカは喜ぶべきだろう。もし証拠が出たら、重大な民主主義の危機だ。

【8】追及 トランプはまだ逃げ切れたわけではない。ニューヨーク州南地区連邦検察は選挙資金法違反の捜査を継続中。同州の司法長官は、金融犯罪の調査に着手した。アダム・シフ下院情報特別委員会委員長などの民主党議員も調査を続けている。

【9】野党 報告書の概要は「トランプ勝利」に見えるが、長期的には民主党が勝者になる可能性もある。野党がスキャンダル追及の手を緩め、もっと有権者にアピールできる政策論争に力を入れれば、20年の大統領選でトランプに勝てるかもしれない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story