コラム

トランプ流が招く対北朝鮮外交の「敗戦」

2018年05月02日(水)16時20分

知識の乏しい直感主義者のトランプで大丈夫? Kevin Lamarque-REUTERS

<専門家を信用せず、目立つことしか関心がない――トランプのやり方では北朝鮮に手玉に取られるだけ>

リーダー育成の専門家にとって、ドナルド・トランプ米大統領は強力な反面教師と言える。ある国際的なリーダーも先頃、私にこう語った――トランプは、模範的なリーダー像とは正反対を行っている、と。

アメリカ大統領のようなリーダーに不可欠な要素は、言動の一貫性だ。ところが、トランプはそれをことごとく欠いている。その点が最もよく表れているのが北朝鮮政策だ。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)が米朝首脳会談を呼び掛けたことも驚きだったが、トランプがそれに応じたことも驚きだった。

一見すると、金が首脳会談を提案してきたのは、経済制裁が効果を発揮し始めた結果と思えなくもない。そうだとすれば、アメリカ外交の大勝利ということになる。

しかし、首脳会談を成功させるためには、トランプは高度な綱渡りをやってのけなくてはならない。トランプの行く手には、至る所に政治的な地雷が埋まっている。もし非核化の合意を引き出せなければ、アメリカのメンツは完全につぶれ、宿敵アメリカの鼻を明かした金の威信だけが高まる。

専門家に仕事をさせるべき

トランプの大統領選の戦い方とこれまでの政権運営から見えてくるのは、専門家を見下し、自らの直感的判断を重んじる姿勢だ。しかし、米朝交渉では繊細な話し合いが必要になる。専門家に交渉の主導役を任せるべきだ。

現実には、トランプがスポットライトを他人に譲ることは、ほんの一瞬でも考えにくい。目立ちたがり屋の大統領が望むのは、ほかの大統領にできなかったことを実行したと言えること。

そのためには、アメリカの威信が損なわれ、戦争が現実化するリスクが膨れ上がろうと関係ない。この男にとって最も重要なのは自分の名声だ。国益のことなどまるで考えていない。

金との首脳会談に向けて政権内の専門家たちの力を借りなければ、結末は見えている。トランプは、どのように振る舞うべきか見当がつかず、「ものすごく」だの「とびきり」だのといった言葉以外は何を言っていいかも分からないだろう。

「知識が乏しい上に、説明や報告を受けることも拒む。おまけに、相手の思惑どおりに動かされやすい。リスクだらけの難しい話し合いを1人でやり遂げるのは不可能だ」と、共和党のレーガン政権時代に大統領補佐官も務めた東アジア専門家のダグ・バンドーも指摘している。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

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