コラム

放火事件を起こし火刑に処された少女「お七」と、死者への供養というテーマ

2019年06月06日(木)20時25分

From Michiko Chiyoda @michiko_chiyoda

<海外で高く評価され始めた埼玉在住の千代田路子。大切な人の死を経験し、「弔うとは何か」をテーマに作品を発表している>

写真には2つの大きな特性がある。1つはファインダーという窓を通して自身の外側にある世界を可能な限り客観的に見つめること。もう1つは、同じファインダーを通しながら、あるいはそれを鏡としながら、その世界に自分自身やそのメタファーを投影することだ。

とはいえ、これら2つの写真属性の境界はしばしばあいまいだ。また、後者においても、その醍醐味の1つは、それがパーソナルな(個人的な)ものでありながらも、人間社会の普遍的な何かに発展することだ。

今回紹介する写真家は、本能的に、またある種運命的にそうしたものを追い求めてる女性である。東京生まれ、埼玉在住の千代田路子だ。常に心と体、あるいは自らの精神世界と身体に興味があり、外的世界と内面世界をオーバーラップさせながら作品を作りたい、という。

ビジュアル的にはシンプルで、どこか日本画や禅にも通じるところがある彼女の作品スタイルは、近年海外で高く評価され始めている。作品に影響を与えた1人は、江戸時代の琳派の酒井抱一だか、彼と同じく、その道ではやや風変わりかもしれない。

プロの写真家ではない。美大を卒業し、写真のゼミを取っているが専攻はデザインだ。卒業後、広告代理店でデザイナーとして働き、その後、日本の光学メーカーの宣伝部に転職している。小さい頃に父親からカメラをプレゼントされ、光学メーカーでは仕事柄、日常的に多くの素晴らしい写真作品に接してきたという。

本格的に写真作品を作り出したのは2000年頃からだ。彼女のキャリアを考えれば、決して早くはない。現在も光学メーカーで顧問として勤務している。だが、遅れてきた写真との本格的な関わりが、彼女の才能を見事に開花させたのかもしれない。

なぜなら、千代田の作品の主題はパーソナルなものであり、両親の老い、その死に深く絡んでいるからだ。もちろん、家族に絡む悲しみは誰もが経験する――ベテランの写真家だけでなく、若い写真家も含めて。だがベテランの写真家は、そうした主題を作品にしたとしても、初期の頃のような情熱を忘れがちだったり、必要以上に気負いがちだったりする。若い場合は、さまざまな意味で経験が足りないことが多い。

その点、ビジュアル的には既に優れたキャリアと才能を持ちながらも、本格的に写真作りを行っていなかった千代田は、家族のことが引き金になり、一層写真にのめり込み、かえって才能を開花させることができたのである。

知識欲がすごい。積極的に学ぶことは生きる上で大切なことだという。それを人生のさまざまな出会いの中でさらに昇華させようとする。興味を持った対象に対し、それが今の自分にとってどういう意味があるのか、どういう繋がりがあって巡り会い、興味を持ったのかを探求していきたい、と話す。それは、彼女のある種コンセプチュアルな作品作りにも繋がっていく。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

印南部ナイトクラブ火災、当局が原因調査命令 犠牲者

ワールド

ベセント米財務長官、大豆農場の売却明かす 倫理協定

ワールド

ゼレンスキー氏、和平めぐる米との協議「建設的だが容

ワールド

米USTR代表、中国の貿易合意履行「正しい方向」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story