コラム

「スラム化した地方」に生きる人々への賛美を表す5枚の写真

2018年02月02日(金)16時10分

AP通信やニューヨーク・タイムズ紙などのアフリカでの仕事を通し、アメリカの農村地帯と同じように、グローバリゼーションの多大な影響を受けた光景――例えば、ビクトリア湖の漁師たち――を目の当たりにする。その後、妻が大学院に進むこともあってアイオワに戻り、以後はアメリカの根本的問題である農村部の崩壊に積極的に目を向けることになった。

そしてフレイジャーは、アイオワの問題はアメリカの問題であり、世界で起こっている問題にオーバーラップするものでもあると確信。アイオワをベースに、米農村部の問題をライフワークとしてドキュメントすることを決心したのである。それは「自分の責任だ」と語る。

単に、衰退する農村部や中小都市が顧みられていない状況を世に知らしめようとするだけではない。並行してあるのは、作品の中で常に心掛けているテーマ・主張だという、過酷なコミュニティーで暮らし続けようとする人々の「力強さ」と「忍耐強さ」への賛美だ。彼らが振りまく感情の動きに力点を置きながら、それを視覚化しようとしている。

コミュニケーションも彼の作品づくりの大切な要素となっている。被写体の人々に敬意を払うのはもちろん、被写体との相互関係を構築し、信頼してもらうよう努めているという。

そのため、撮影前は被写体との会話に力点を置き、カメラはバッグの中にしまったままにすることもある。また、数カ月から1年、被写体と過ごすこともあるという。だからこそ彼の作品は、アメリカのダークサイドへの視線とその中で暮らす人々への賛美がごく自然に同居しながら、同時にcandid(本物の、ありのままの)の匂いがするのかもしれない。

フレイジャーによれば、100年前は農村部の人口がアメリカ全体の72%だった。それが今、16%に激減しているという。インタビューの最後に、そうした現状を写真は変え得るのかと訊いてみた。しばらく間があった後、「人間はアートなしでは進化していかない」という答えが返ってきた。

ここでいうアートとは、もちろんフォトドキュメンタリーもジャーナリズムも含む。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Danny Wilcox Frazier @dannywilcoxfrazier

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ゴールドマンとBofAの株主総会、会長・CEO分離

ワールド

日米の宇宙非核決議案にロシアが拒否権、国連安保理

ビジネス

ホンダ、旭化成と電池部材の生産で協業 カナダの新工

ビジネス

米AT&T、携帯電話契約者とフリーキャッシュフロー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story