コラム

「Be Careful to Passage Trains」日本の駅で見つけた妙な英語

2019年09月13日(金)16時05分

なお、この英語を読む人が「電車」のことだと推測できたとしても、この文章には混乱を招かねない別の問題があります。なぜなら、このままでの英語では「全てが門司駅と小倉駅に停車されています」という意味に取られるからです。要するに、現時点で電車は動いていないように聞こえてしまいます。乗客の疑問に答えることを目的とした案内板のはずですから、これはとても残念な結果です。

この場合は、All trains stop at Moji station and Kokura station.あるいはAll trains stop at Moji and Kokura stations.(全ての電車は門司駅と小倉駅に停車します)と変えるのが良いと思います。

ところで、その日一緒に門司港を訪問していた中国語ができる友人によると、中国語の翻訳も意味が通らなかったそうです。

意図せずして、哲学的な意味になってしまった例

●駅構内及び社内で不審物等を発見された場合は、係員へ通報下さい。If you are in doubt, please tell an official in charge.

地下鉄で見つけたこの案内板の英語は、文法的には正しいのですが、日本語の訳とはマッチしていません。それどころか、意図的ではないにせよ、とても哲学的な意味を示す英語になってしまっています。

この英語を日本語に訳すとすれば、「もし疑念の気持ちがあるのなら、係員に伝えてください」。これを見た時、私は「たくさんのことに関して疑念の気持ちがあるけれど、この駅の係員がそれら全てに関して助けになるとは思えない......」と率直に思いました。

もし本当に助けになってくれるのならば、何かの魔術的リアリズムの小説の一節を現実に見ているようなものです。係員が人の疑念の気持ちを解決してくれる魔法の駅――もしも私が小説家ならば、ぜひ小説に書きたいところです。

この駅には心理学的な、あるいは魔法のトレーニングを受けている係員はおそらくいないと思うので、日本語をもっと忠実に反映する英語に変えるべきでしょう。If you find anything suspicious, please notify the station staff immediately.が良いのではないかと思います。

◇ ◇ ◇

駅で使う必要のある表現の多くは、今後も各所で繰り返して使われる可能性があるため、政府などがそれをリストアップして良い英訳、韓国語訳や中国語訳をまとめ、皆が使えるようにすればいいのではないか。

これは、ツイッターでやり取りをしている複数の方々に提案していただいたことなのですが、とても良い提案だと思います。今後のためにも、ぜひ実施していただきたいことです。

20190917issue_cover200.jpg
※9月17日号(9月10日発売)は、「顔認証の最前線」特集。生活を安全で便利にする新ツールか、独裁政権の道具か――。日常生活からビジネス、安全保障まで、日本人が知らない顔認証技術のメリットとリスクを徹底レポート。顔認証の最先端を行く中国の語られざる側面も明かす。


ニューズウィーク日本版 コメ高騰の真犯人
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月24日号(6月17日発売)は「コメ高騰の真犯人」特集。なぜコメの価格は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

ロッシェル・カップ

Rochelle Kopp 北九州市立大学英米学科グローバルビジネスプログラム教授。日本の多国籍企業の海外進出や海外企業の日本拠点をサポートするジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社の創立者兼社長。イェ−ル大学歴史学部卒業、シガゴ大学経営大学院修了(MBA)。『英語の品格』(共著)、『反省しないアメリカ人をあつかう方法34』『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』『日本企業がシリコンバレーのスピードを身につける方法』(共著)など著書多数。最新刊は『マンガでわかる外国人との働き方』(共著)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story