コラム

「You can use this Internet for free.」日本の無料Wi-Fi案内で見つけた妙な英語

2019年11月22日(金)10時55分

scanrail-iStock.

<不自然な表現やギクシャクしたフレーズ――。公共のWi-Fiサービスが増えてきたのはありがたいが、その説明文には英語の問題が多く見られ、意味不明となっているケースもある。どう変更すれば誤解を生まずに済むのか、ネイティブがチェックします>

私は日本国内を移動しながら、公共の無料Wi-Fiサービスを使うことがよくあります。便利ですし、日本の携帯電話を持っていない外国からの観光客にとっては不可欠なので、近年Wi-Fiがさまざまな場所で提供されるようになったのはとてもありがたいことです。

しかし、残念ながら、無料Wi-Fiのアクセスページなどの英語の説明文には理想的とは言えない書き方が頻繁に見られます。なかには日本人が英語でよく間違えるポイントも多く含まれているので、分析すれば良い勉強の材料になるでしょう。

皆様にとって参考になれば嬉しく思います。

SNSは英語ではない、mail addressとも言わない

●Shinkansen Free Wi-Fi
You can use this Internet for free.
You have to register your mail address or SNS account.
This page will be displayed after having used this Internet for thirty minutes.

このお知らせには複数の英語の問題があるので、1つずつ見ていきましょう。

・まず、口頭であれば文章をYouで始めることは多いのですが、書き言葉ではあまり使われず、かえってカジュアル過ぎる印象を与えてしまいます。

・this Internet とは普通言いません。Internetは1つしか存在しないので(※)、Internetが複数あることを示唆するthisの代わりに、1つだけということを示すtheを使います。なお、厳密に言うと、ここで提供しているのはWi-Fiサービスであり、インターネットではありません(そのサービスを通じてインターネットにアクセスします)。そのため、ここではInternetという単語を使わないほうがいいでしょう。

・for freeは間違ってはいませんが、これもカジュアル過ぎる言い方に聞こえます。

・英語ではmail addressとは言いません。email addressです。

・SNSは英語ではありません。英語ではsocial mediaと言います。

・will be displayed after having used...for thirty minutesは、非常にギクシャクした言い方ですし、意味も不明確です。

※Internetの説明について誤りがあったため訂正しました(2019年11月23日13:00)。

上記を踏まえて、このように書き直すと適切な仕上がりになるでしょう。

There is no charge for using this Wi-Fi service.
However, registration is required (by email address or social media account).
Re-login is required every 30 minutes.

ところで、なぜ無料のWi-Fiにアクセスするために、メールアドレスやSNSのアカウントを登録しなければならないのか、私には全く分かりません。それはセキュリティの面で良いとは言いがたいですし、使用方法がよりややこしくなるため使用者にとって不便でもあります。

私はいつも入力したメールアドレスが盗まれるのではないかと心配していますし、メールアドレスでもSNSアカウントでも匿名のものを簡単に作れるため――登録させるのはセキュリティのためだろうとは思うのですが――悪意のある人がもし何か問題を起こしても、その人を特定することはできないのです。

ほかの国は最近チェックしていませんが、アメリカの場合、メールアドレスなどの登録を求められることはほとんどありません(レストランや小売店舗の一部は、宣伝のためにフェイスブックでのチェックインを求めますが、それはとても少ないです)。

メールアドレスかSNSのアカウントを要求するのは、日本のリスク回避志向文化の表れや、security theater(セキュリティ対策を取っているように見せかけること)なのではないかと思いますが、是非再考してほしい習慣です。

プロフィール

ロッシェル・カップ

Rochelle Kopp 北九州市立大学英米学科グローバルビジネスプログラム教授。日本の多国籍企業の海外進出や海外企業の日本拠点をサポートするジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社の創立者兼社長。イェ−ル大学歴史学部卒業、シガゴ大学経営大学院修了(MBA)。『英語の品格』(共著)、『反省しないアメリカ人をあつかう方法34』『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』『日本企業がシリコンバレーのスピードを身につける方法』(共著)など著書多数。最新刊は『マンガでわかる外国人との働き方』(共著)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

〔ロイターネクスト〕気候とエネルギー、なお長期投資

ワールド

ミャンマーのアヘン栽培、過去10年で最大 世界最大

ビジネス

国際会計基準審議会、銀行リスク評価の新モデル巡り協

ワールド

子どもの死亡数、今年増加へ 援助削減が影響=ゲイツ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story