コラム

日本の大学にもパレスチナ支持デモが広がっているが......

2024年05月22日(水)15時15分

一方で、イスラエルとの外交も活発です。準英語圏として、テクノロジー関連の産業で日本より進んだ分野も出てきたイスラエルとは、経済交流、文化交流も盛んに行われていました。その結果として、パレスチナ自治政府、イスラエルの両国と良好な関係を維持している日本は、その外交姿勢そのものが「二国家体制」という解決策への強いスポンサーとして機能しているのです。

したがって、日本の大学生は「アメリカの大学に続こう」などと考える必要は全くありません。一部には「アメリカの学生たちの要求を踏襲し、イスラエルや関係企業との連携に関する情報開示と資金引き揚げを求める」などという声明を出す動きもあるようですが、これもお門違いです。


 

それだけではありません。現在、オランダのハーグにある国際刑事裁判所(ICC)ではカーン主任検察官が、イスラエルのネタニヤフ首相やハマスのガザ地区トップのシンワル指導者など、双方の合わせて5人に対して逮捕状を請求しました。容疑は戦争犯罪や人道に対する犯罪の疑いです。

このうちイスラエル側は、ネタニヤフ首相とガラント国防相の2人に対してで、民間人を飢餓に陥らせ、また意図的に民間人に対して攻撃を行ったりした戦争犯罪の容疑です。また、ハマスの方は、シンワル指導者や、ハニーヤ最高幹部ら3人に対するもので、昨年10月7日のイスラエルに対するテロ攻撃で民間人を殺害し、少なくとも245人を人質に取った行動は同じく戦争犯罪の容疑があるとしています。

バイデンは反対、マクロンは支持

この逮捕状請求という動きには、当事者の双方だけでなくアメリカのバイデン政権も激しく反発しています。一方で、フランスのマクロン大統領は逮捕状請求を支持すると表明して、世界に波紋を投げかけました。

実はこのICCのトップ、つまり国際刑事裁判所の所長は日本人の赤根智子氏です。赤根氏は、既にウクライナでの戦争犯罪容疑により、ロシアのプーチン大統領に対して逮捕状を出しています。その結果として赤根氏はロシアから指名手配を受けるという報復を受けていますが、これには全く屈してはいません。

では、赤根氏は全く個人の思想や思いつきでこのような行動をしているかというと、これは違います。1982年に検事任官されて以来、教育や国際貢献などの場に活動を広げつつも、赤根氏は一貫して日本国政府の法務省の職員でした。そして現職のICC所長というポジションも、加盟国である日本を代表しての就任と位置付けることができます。

今回の一件で、赤根氏のICCが正式に逮捕状を発行するところまで判断するかは分かりません。そこには厳密な国際法の法律論に加えて、国連外交上の様々な考慮が重なることは避けられないからです。ですが、少なくとも赤根氏が所長を務めるICCの検事がイスラエルとパレスチナの双方の戦争責任者に対して戦争犯罪の容疑で逮捕状を請求しているという事実は、このことだけでも非常に重たいものがあります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:雪解けは本物か、手綱握りなおす中国とロシア向

ワールド

米、イラン新指導者モジタバ師ら巡る情報提供に最大1

ワールド

トランプ氏、イラン濃縮ウランのロシア移送案拒否 プ

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ約120ドル安 原油高でイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切りは常軌を逸している」その怒りの理由
  • 3
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド太平洋防衛
  • 4
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 5
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 6
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 7
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 8
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 9
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 10
    謎すぎる...戦争嫌いのMAGAがなぜイラン攻撃を支持す…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story