コラム

議会乱入の暴徒が叫んでいた「ハング・ペンス(ペンスを吊るせ)」のチャント

2021年01月12日(火)17時40分

ペンスの場合は、仮に「大統領解任」を自分の意思で進めた場合に、今度は数日間の自分の大統領の任期において、トランプを恩赦するかどうかという問題の「踏み絵」を踏まされることになります。恩赦という選択を迫られることの困難が、ペンスが「解任」へと踏み込むことへの障害になっているという解説もあり、私もそう考えた時期もありました。

ですが、事件の真相がどんどん明らかとなり、ペンス本人への殺害予告だけでなく、激しい暴力や破壊行動の映像なども明らかとなった今は、ペンスとして「トランプを恩赦しない」という判断を行っても、国民の大多数は納得すると考えられます。

あとは、政治的な与野党の力関係への影響をどう計算するかですが、それよりも、トランプを下野させることで、より自由な立場から暴力を扇動する可能性があるか、それから一部で囁かれているトランプの「逃亡」を防止するという点からは、解任した方が良いのかどうかが判断の基準になると思われます。

ペンスがトランプ解任を断念した場合には、議会下院はただちに弾劾決議に進む模様です。問題はその後で、議会上院の3分の2の賛成を得るのには時間がかかりそうです。ですから、20日のトランプ退任、バイデン就任の後に上院の審議を持ち越すという案も出ています。

その一方で、「新大統領の最初の100日」は政争を棚上げして、与野党が協調してコロナ対策に注力するべきという意見もあります。その場合は、「最初の100日」の後で、退任した大統領を対象とした弾劾裁判が行われることになります。妙といえば妙なのですが、公職への立候補を禁止し、年金受給権を剥奪するためには、通常の刑事事件として立件するだけでなく、元大統領の「大統領の犯罪」を弾劾することは意味があるというのです。それが暴力行為を押さえ込むことにもなるという考え方もあります。

いずれにしても、再度の弾劾騒動になったので「これでは分断が深刻化するばかり」という見方がありますが、そうではなくて、いかに暴力事件の再発を防止するかに焦点が移っているのです。解任案も、弾劾もそうした観点からの判断になっています。

アメリカの政局は一変しています。少なくとも、トランプが7400万票を集めたというのは過去の話になり、現時点で支持しているのは一部の過激な分子が中心となっています。その意味で、ペンスには「正気に戻った共和党」を象徴して動くことも期待されています。

ニューズウィーク日本版 AI兵士の新しい戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月13号(1月6日発売)は「AI兵士の新しい戦争」特集。ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米国のイラン介入に備え厳戒態勢=関係筋

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ドローン飛来で韓国に調査要求

ワールド

米ミネアポリスで数万人デモ、移民当局職員による女性

ワールド

米、来週にもベネズエラ制裁さらに解除=ベセント氏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画をネット民冷笑...「本当に痛々しい」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 7
    決死の嘘が救ったクリムトの肖像画 ──ナチスの迫害を…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    美男美女と話題も「大失敗」との声も...実写版『塔の…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 9
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story