コラム

議会乱入の暴徒が叫んでいた「ハング・ペンス(ペンスを吊るせ)」のチャント

2021年01月12日(火)17時40分

議事堂になだれ込んだ暴徒の破壊行為の詳細が徐々に明らかに Leah Millis-REUTERS

<トランプの職務停止や弾劾を求める声が高まるなか、ペンス副大統領の判断が注目されている>

先週6日に発生したトランプ支持者による連邦議会議事堂への乱入事件は、結果的にバイデン次期大統領の就任を法的に確定させるとともに、議会の民主・共和両党の圧倒的多数がトランプ政治に決別をするきっかけになりました。

ですが、事件後の米政界は揺れています。何といっても、最大の懸念は1月20日のバイデンの大統領就任式が安全に実施できるかどうかですが、とりあえず首都ワシントンはすでに厳戒態勢にあり、トランプ派が乱入するのを防ぐために鉄製の高いフェンスが議事堂周辺に張りめぐらされています。州兵の動員も始まっており、当日は1万数千人態勢での警備になるようです。

その就任式にはペンス現副大統領は参加、トランプは不参加になる模様です。トランプの不参加は、罷免直前に辞任してカリフォルニアへ去ったニクソンを除いては、健康問題で列席できなかったウィルソン以来という憲政史上異例な事態となります。ですが「混乱を回避するためには良い判断(バイデン次期大統領)」という理解が広まっているのは事実です。

そんな中で、最大の懸念は、就任式とそれまでの9日間に、さらなる暴力事件が発生する可能性です。すでにトランプ派は、連日のように全国の州都で集会を行っています。また週末にはカリフォルニア州サンディエゴで、トランプ派と警官隊がにらみ合うなどかなり緊迫した局面も起きています。再度の流血沙汰をどうやって防ぐかに焦点が集まっています。

そこで、注目されているのがペンス副大統領の判断です。この間ずっと取り沙汰されていた「憲法修正25条による大統領の職務停止」へ向けて、その権限を持っているペンスが行動を起こすのかどうか、現在はその瀬戸際になっています。つまり、副大統領と閣僚の過半数が同意すれば、大統領の職務が停止できるとして、連邦下院では「修正25条の発動」を要求する動議が出されています。

明らかになる暴徒の暴力、破壊行為

この「修正25条の適用」ですが、事件直後から話はあり、また直後にはペンスは消極的という報道が出ていました。ですが、現時点ではペンスは、この発動を完全には否定していないという報道もあります。ペンスの周囲の証言によれば「さらなる暴力の兆候があれば」発動も考慮するとしているそうです。

そのペンスは、事実上、超法規的に軍の指揮権や政権移行措置の実務を代行している格好になっています。では、このまま事実上トランプの大統領としての権力を「羽交い締め」にした形で残り8日間を過ごせばいい、常識的にはそうなりますが、依然としてペンスが「修正25条発動」を否定していないのは、やはり6日の事件を重く見ているからだと思います。

週末に新しく公開された動画では、あの日、恐ろしいことに、議場に乱入した暴徒は「ハング・ペンス」と何度もチャント(唱和)していた様子が撮影されていました。要するに暴徒はペンス副大統領を「ハング(吊るせ)」と叫んでいたのです。自分たちを裏切ってバイデン当選承認を進めた副大統領は「殺す」というのですからまったく穏やかではありません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン

ワールド

トランプ氏、ウクライナに合意促す 米ロ首脳会談は停

ワールド

ゼレンスキー氏、米ロとの3カ国協議を支持 「最大限

ワールド

中国の王毅外相、インド訪問へ ヒマラヤの係争地につ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story