コラム

日本でテレワークを普及させるための3つの論点

2020年02月27日(木)16時00分

現状では日本の企業でテレワークを導入するにはかなりの困難が伴う Athit Perawongmetha-REUTERS

<テレワーク推進は、新型コロナウイルスの感染予防にとどまらず、今後の企業の存続を左右する重要課題>

テレワークの推進を安倍首相みずからが訴える事態になっていますが、実際の導入には困難が伴っているようです。ですが、ここで一気に推進できるかどうかは、現在進行中の新型コロナウイルスの感染予防だけでなく、この危機が収束した後の日本企業の存続にも大きく関わってきます。そこで、日本でテレワーク普及を成功させる上での3つの論点を提示したいと思います。

1つ目は、徹底したペーパーレスの実現です。テレワークで実務を回すには、原本主義、捺印、地上郵便の3つを徹底して追放しなくてはなりません。例えば一部の担当者だけが、郵便を受け取るためとか、過去の記録の原本を参照するために出勤しなくてはならないという問題、社印や社長印の管理のために出勤しなくてはならないなどという問題は、この際、一気に改革して、ペーパーレスに移行するべきです。必要な法改正も早急に進めるべきです。

例えば、ペーパーレスをしようとすると、請求書や領収書は紙でなくてはダメで、印鑑や印紙が必要という場合があります。やたらにこだわる会社の場合、多くは「税務署から経費認定されないといけないので、リスクを最小限にしたい」などというアドバイスをする税理士がいるからですが、これは、国税として「不要です」という通達をすれば済むことです。ちょうど、個人の確定申告、法人の3月決算から確定申告の時期になりますが、こうした時期だからこそ、国税は迅速にペーパーレス化を促す告知をするべきです。

非生産的な働き方があぶり出される?

2つ目は、非正規労働者に権限を与えて労働機会をまもりきるということです。非正規は時給であり、給与は事業所における身体拘束の代償でしかないという発想をあらためて、タスクを割り振り、テレワークを可能とするのです。テレワークは社員だけ、非正規は対象外なのでオフィスが閉鎖の期間は無給などということはあってはなりません。

非正規にテレワークを認めると、仕事の量と結果が記録として残ります。ただ、その点では正社員も同じです。テレワークをやってみたら、本当に意味のある実務は非正規が担っていて、社員は無駄な組織内のコミュニケーションに忙殺されていた、その結果としてテレワークにしたら社員は時間が余ってしょうがない、などということも起きるかもしれません。

仮にそうしたケースがあったとしたら、それは「テレワークの弊害」ではないのです。そうではなくて、いかに社員が非生産的な働き方をしていたかという問題があぶり出されただけであって、業務改善の良いきっかけになったと考えるべきでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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