コラム

米中間選挙直前の移民キャラバン、トランプへの追い風になる「逆効果」

2018年10月25日(木)16時50分

移民キャラバンの背景には中南米の治安情勢の悪化がある Luis Echeverria-REUTERS

<治安悪化が深刻な中南米から一斉にアメリカを目指す移民キャラバンは、これまでのところ「キャラバン阻止」を訴えるトランプへの追い風になっている>

米中間選挙の投票日が来月6日に迫って来ました。そんななかで、連日全米のトップニュースになっているのは中米ホンジュラスからの移民キャラバンの問題です。

ホンジュラスでは、2009年の軍事クーデター後の経済の低迷と、麻薬取引を行うギャング集団の活動のために治安が大きく悪化しており、まず経済力のある国民から国外に脱出しているのが現状です。

そんななかで、「中米移民キャラバン」という市民団体が小さな子供と親を中心に、これまで「逃げたくても逃げられなかった」人を集めてキャラバンを組み、アメリカを目指すという運動を開始しました。まず3月25日には、「第一回キャラバン」がホンジュラス南部のチョルテカ県を起点としてスタート、グアテマラ経由で約1200人がメキシコに入り、北上して4月29日には、メキシコとカリフォルニアの国境の町ティファナに到着しました。

この事件も連日報道されていましたが、結局のところセッションズ司法長官は、「この人々は我々の法律に違反しようとしている」としてこれを拒否。150人が難民申請をしようとしたのですが、受理されるどころか申請のために国境を少しでも越えたなどとして10数人と支援者が逮捕される結果に終わりました。

それから7カ月後、今度は「第二回キャラバン」が企画され、そのプランはSNSで拡散され、今度はホンジュラス第二の都市サンペドロスーラを起点としてのキャラバンが組まれました。この街は、元々はホンジュラスの経済の中心ですが、現在は麻薬ギャングの抗争が激しく、「世界で一番危険な町」と言われている場所です。

今回は、スタート時点では500人規模であったのが、徐々に参加者が増え、第一回よりも規模が大きくなっています。ホンジュラスからグアテマラに入ると規模は4000人近くになり、メキシコはトラブルを避けるために、グアテマラ国境に大規模な警察隊を派遣しました。しかし強制的な排除はできず、キャラバンはメキシコに入りました。現在は、約5000人が徒歩でメキシコ国内を北上中です。

今回の「第二回」ですが、アメリカの中間選挙を意識して、この移民問題をアメリカの政治問題にして何とか活路を開こう、そのような意図でタイミングが図られた可能性はあります。ですが現時点では、反対に「トランプ派が工作を仕掛けた?」のではないかと思わせるぐらい、政治的には逆効果になっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story