コラム

安倍首相の真珠湾献花、ベストのタイミングはいつか?

2016年05月19日(木)16時40分

Hugh Gentry-REUTERS

<オバマ米大統領の広島訪問に対応する形で、安倍首相の真珠湾献花が議論されている。その実現は早ければ早い程良いが、現在進行中の大統領選と重なるとせっかくの意義が薄れてしまうおそれもある>(写真はハワイの戦艦アリゾナ記念館)

 今月27日に予定されているオバマ大統領の広島訪問に呼応するように、安倍首相がハワイの真珠湾を訪問にして「相互献花外交」を完結するという提案に関しては、このコラムでも繰り返し説明した通りです。

 問題はタイミングです。私としては、依然として「直後の5月30日(メモルアルデー)」がベストと考えていますが、日程が迫る中で難しくなりつつあるのかもしれません。もし、仮に行うのであれば、様々な制約があると思います。

 一つ一つの問題は、かなりクリティカルですので、あらためて早期発表、早期実現がベストだということを強く申し上げたいと思います。

 まず、一部で報道されている11月のペルーAPECの際に首相が立ち寄るという構想、また12月の「真珠湾攻撃75周年」というタイミングについてですが、米大統領選の直後というのが心配です。

 というのは、万が一11月8日に「トランプ当選」の場合、どうしても「トランプ政権登場というショックに対するリアクション」というニュアンスが出てしまうからです。つまり、「トランプ政権を意識しての行動」という印象を与え、総理が「トランプの風下に立つ」形になるわけです。これは好ましくありません。

 ですから、やはり発表も実現も11月7日以前が望ましいということになります。また投票日直前になれば、その行動自体はアメリカ人としては超党派で歓迎するとは思いますが、政治的には避けるべきですし、アメリカでの報道における扱い(これが一番大切)が小さくなる危険があります。その意味で、9月以降の「本選たけなわ」という時期は避けるべきでしょう。

 アメリカでの報道ということでは、仮に5月30日のメモリアルデーの訪問が不可能であっても、5月27日以前に発表できれば効果は大きいと思われます。というのは、広島からの中継映像において、CNNをはじめとする米メディアが安倍総理を「真珠湾訪問を決断した総理大臣」として紹介することになるからです。

 何と言っても、オバマ大統領の広島訪問というのは、アメリカ社会に取っては「ビッグ・イベント」ですから多くの報道陣が来ます。そこで同行する安倍首相が「すでに真珠湾行きを発表している」ということになれば、アメリカ社会の中の「オバマ献花への反対論」を打ち消す効果、そして日米関係の重要性に関して改めてアピールする効果があるように思います。

 それだけではなく、トランプ候補が言っている「在日米軍の駐留コスト100%負担がなければ米軍は撤退」とか「その場合には日韓に核武装を認める」といった「思いつき」がいかにバカバカしいかを、「オバマ大統領と安倍首相の厳粛な表情の映像」を持ってアメリカの世論にアピールすることも可能になります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 8
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story