コラム

「夫婦別姓議論」に時間をかける余裕はない

2015年12月17日(木)16時30分

「夫婦別姓」の問題は世代間の価値観の衝突になっている imtmphoto-iStock.

 いわゆる「夫婦別姓反対論」の問題については、以前にもこの欄で「アメリカの宗教保守派」との比較をしながらお話をしました。

 アメリカの保守派が「家族という価値」に固執する姿勢は、一見すると日本の保守派が「家族制度」に固執する態度に似ているようですが、日本の場合は「世代間の価値観論争」という面が強く、そのために意識改革に時間がかかっている議論です。

 今週、日本の最高裁は「夫婦同姓を定めた民法は合憲」という判断をしましたが、保守的な最高裁としては予想できた判決である一方、このままこの調子で議論に時間をかけていていいのかという疑問があらためてわいてきました。

 前回お話したように「世代」が絡んでいるという理解は、事実認識としては間違っていないと思います。ですが、世代の問題だから時間をかけて解決するということでは、改革に時間がかかり過ぎると思います。

 例えばアメリカの場合ですと「同性婚」の問題が賛否両論を招いていた時期がありました。オバマ大統領は2008年の選挙戦を戦うにあたって、「同性婚への賛否」については曖昧にしていました。後にホンネとしては「賛成」だと明かしましたが、選挙戦の時点では国論の二分を避けるために、あえて自分の立場は「ボカして」いたのです。要するに、そのくらい対立が激しかったということです。

 ですが2014~15年に、この問題は各州の判断、そして最高裁判断を経てほぼ解決に向かいました。それは、オバマという中道リベラル政権の時代がそうさせたというよりも、一歳ごとに400万人前後という巨大な若年層が毎年有権者として加わり、それが時代を動かしたのだと言えます。

 これと比較して日本は、いくら18歳選挙権が実現するにしても、巨大な高齢層の「塊」がある一方で、若年層はどんどん細っていく人口ピラミッドの中では、世代交代による価値観の変化は非常にスローになってしまいます。

 どこかで国論を割ってもいいというくらいの覚悟で、論争をしっかりやらないと、時代は前へ進まないのではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ドイツ下院、新たな兵役法案承認 ロシア脅威で防衛力

ワールド

NYタイムズ、パープレキシティAIを提訴 無断複製

ワールド

プーチン氏、インドに燃料安定供給を確約 モディ首相

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 4
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story