コラム

第二次大戦終結70周年の「9月3日」をどうするか

2015年03月10日(火)11時09分

 日本国内では「戦争終結の日」は軍が無条件降伏した「8月15日」であって、政府が降伏文書に署名した「9月3日」ではないという認識が1945年の当時から現在まで続いています。ですが、対外的には「降伏文書署名」の「9月3日」の方がはるかに重要です。人類全体に影響を与えた未曾有の大戦が終結を見たのは、この日とされるからです。

 今年はその70周年に当たるわけですが、現時点では中国とロシアが主導して「対ファシズム戦勝記念日」を祝い、同時に中国の軍事力を誇示するパレードを企画しているようです。これは、不自然な話です。というのは中華人民共和国もロシア連邦も「1945年9月3日」の降伏文書署名の当事国ではないからです。

 仮に大きく譲歩して、中華人民共和国とロシア連邦は、例えば国連代表の地位を中華民国とソビエト連邦から継承しており、戦勝国の地位も同じように継承されたと見るにしても、「対ファシズム戦勝」というのは自由と民主主義の勝利を意味するはずです。公選制の導入に消極的な中国と、公選制を機能させるための野党勢力に対して事実上の弾圧が続くロシアが「対ファシズム勝利」を主導するというのは、不自然としか言いようがありません。

 では、日本は何ができるのでしょうか? 4つの可能性を考えてみました。

 1つ目は「中国とロシアが主導するイベントを、そのまま実施させて日本は参加しない」という選択肢です。これは最悪であり、日本の国際社会での地位を低下させる可能性があります。

 2つ目は、中国とロシアがイベントをするのは勝手にさせておいて、日本と例えばアメリカなどの「自由陣営」は別のイベントを「分離開催」するという可能性です。日米が実施して、例えば英仏や豪州、ASEANなども参加すれば、体裁はつくでしょう。ドイツにも是非参加を呼びかけたいものです。

 3つ目は、中国が開催するイベントに、日本とアメリカ、そして英仏、ASEAN、豪州にドイツなどが参加してしまうという考え方です。要するに「継承したとは言え、オリジナルの戦争の当事国でない中国とロシア」主導のイベントに、正式な当事国が全部乗ってしまうことで、分裂開催を避けて国連の精神に則したイベントにしてしまうのです。その代わりに、少なくとも、中国がパレードで軍事力を誇示するなどという「主旨とは違うこと」は止めてもらうのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story