コラム

ウクライナ問題でアメリカはどうして「ポーカーフェース」なのか?

2014年03月18日(火)12時37分

 それは、この問題の当事者はロシアであり、EUだという認識です。そしてカネの面で言えば、まずロシアが相当額を出し、次いでロシアにエネルギーの依存度を高めているドイツが相当の負担をすればいいというスタンスです。

 更に言えば、非常に自己中心的な姿勢ではありますが、アメリカとしては(1)ウクライナが最悪の場合にデフォルトになっても困らない、また(2)この地の混乱により化石エネルギーの価格が上昇してもシェールガスも出るので以前ほどには困らない、というスタンスがあるようです。

 更に言えば、ロシアの金融事情は厳しいものがあるのです。現在のロシアの株価指数MICEXは、3月3日に大暴落した水準をウロウロしており、年初から15%下げた状況が続いています。ロシアの通貨ルーブルも、対ドルの水準ではダラダラと下げが続いています。

 そんな中、オバマは「長期戦」で構わないというスタンスを取りつつあるようです。以前にも書きましたが、困っているのはロシアであり、ウクライナが破綻して連鎖倒産するのは困る、とりあえず借金の担保にクリミアを切り取る構えで西側を怒らせてカネを出させようとしたが乗ってこない、そうこうするうちに、株も通貨も下げが止まらない......強気のウラでプーチンは困り果てている、恐らくアメリカはそのように読んでいるのではと思います。

 月曜日の市場の大幅高を見て、経済ニュース局CNBCのジム・クレマーは「要するにクリミア問題というのは、キプロス問題にちょっと毛が生えた程度の話さ」などと軽口を叩く始末ですが、その背景にはアメリカとして、ウクライナ情勢全般に関して、極めて冷淡な姿勢があるとも言えるでしょう。株高の解説としては「住民投票の結果は織り込み済み」であり、「混乱なく投票が実施された」ことで、危機はやや緩んだ、というものもありました。

 オバマとしては、追い詰められたロシアがまずはEUに泣き付き、さらにどうしようもなくなって債権の一部放棄などに応じるように持っていく、そんな考えでいると思われます。「長期戦」というのはそういうことです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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