コラム

田中将大投手の入団会見は、どうして「準備不足」でも許されたのか?

2014年02月12日(水)11時23分

 2月11日の午後1時から行われた田中将大投手の入団会見には、大変な注目が集まっていました。結果的に言えば、大失敗だったとは思いませんが、ヤンキース中継専門のTV局「YES」ネットワークが特番を組んだ割には「盛り上がりに欠けるショー」になったのは否めないと思います。

 それにしても、大変な前評判でした。会見を中継した「YES」だけでなく、ニューヨークの大手メディアの「スポーツニュース」では、前日から「入団会見の予定」がトップ扱いでした。その「YES」の特番では冒頭のイメージビデオの部分では楽天時代の田中投手の投球を紹介するとともに、昨年秋以来のニューヨークを中心としたメディアで続いた「タナカ」騒動を象徴するかのように「タナカ」コールを何度も何度も重ねた異様な編集になっていたのでした。

 番組が始まると、ヤンキース戦のTVキャスターとして、ヤンキースファンの間では知らぬ者はいないマイケル・ケイをはじめとした3人のキャスターが「今回の田中獲得の意義について」のトークで盛り上がるうちに、主役たちが登壇。まずブライアン・キャッシュマンGMとジョー・ジラルディ監督が短い挨拶を行うと、ジラルディ監督が「背番号19」の真新しいユニフォームと、ヤンキースの帽子を田中投手に着せるというセレモニー。そして田中投手の簡単な挨拶と、短い一問一答での質疑応答があり、会見自体は20分程度で終わりました。

 別に大きな問題があったわけではありません。GMと監督の話は儀礼的な範囲でしたが、最大限の「歓迎と期待」が入っていましたし、田中投手の一挙手一投足もキチンとしており、誰もが好感を持ったと思います。特に、ユニフォームを渡された際に、背広の上着を脱いでから着たほうがいいかをアメリカ人の通訳に確かめたり、着る際には丁寧に下の方のボタンまでしっかり留めていたりといった落ち着いた動作はカッコ良かったと思います。何よりも、田中投手のスマイルには多くのニューヨーカーが好感を持ったのではと思います。

 質疑応答に関しても「目標はワールドシリーズ制覇」であるとか「メジャー球への対応は意識すれば大丈夫」というような受け答えは完璧でしたし、松井秀喜氏と電話で話をした際に「(NYは)いい街ですよ」ということを聞かされていたというようなエピソードを紹介したのは良かったと思います。

 ですが、これだけの「大型会見」であるにも関わらず、キチンとしたステートメントを用意出来ていなかったのは、何とも異例でした。

 YESの特番でも「通常のこの種の会見の流れとは全く違った形になってしまった」としながらも、「ロスト・イン・トランスレーション(同名の映画にひっかけて、通訳の失敗による誤解のこと)は全くなかったので良かった」という妙な解説をしていましたが、とにかく田中投手サイドからのステートメントがなかったのは不自然でした。

 その分、質疑応答タイムで質問が殺到したかというと、「偉大なタナカ投手」に敬意を表したのか、ステートメントがなかったので調子が狂ったのか、日米のメディアからもそれほど切れ味のある質問は出なかったのです。田中投手としては「無難に切り抜けた」格好ですが、会見全体としては消化不良な感じが明白でした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

黒海でロシアのタンカーに無人機攻撃、ウクライナは関

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国

ビジネス

OECD、今年の主要国成長見通し上方修正 AI投資

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、11月は前年比+2.2%加速 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 6
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story