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焦点:過熱するAI相場、収益化への懸念で市場に警戒感も

2025年10月16日(木)12時11分

 10月15日、 米国株は今年、人工知能(AI)の潜在的収益力に対する楽観論を背景に過去最高値を更新している。しかし投資家は、この「AIトレード」に潜む弱点を探しており、警戒すべきリスクをいくつか指摘している。写真は2024年2月、バルセロナで開催された展示会に掲げられたAIのイメージ(2025年 ロイター/Bruna Casas)

Lewis Krauskopf

[ニューヨーク 15日 ロイター] - 米国株は今年、人工知能(AI)の潜在的収益力に対する楽観論を背景に過去最高値を更新している。しかし投資家は、この「AIトレード」に潜む弱点を探しており、警戒すべきリスクをいくつか指摘している。

2022年11月に生成AIの「チャットGPT」が登場して以来、AIはウォール街の主要テーマとなった。シティグループのストラテジストは、S&P総合500種指数の時価総額約57兆ドルのうち、約50%はAIへのエクスポージャー(関連性)が「高い」または「中程度」だと推計している。

S&P総合500種は年初来で約13%、ハイテク株中心のナスダック総合指数は17%、それぞれ上昇した。

PNCフィナンシャル・サービシズ・グループの投資戦略責任者、ユンユー・マー氏は「市場の支援材料の多くは、直接的もしくは間接的にこの取引に関連している」と言う。

ハイテクおよびAI関連株は今年、幾度か失速した。年初に中国発の低コストAIモデル「ディープシーク」が登場した際には、AIに対する巨額投資の是非が問われ、衝撃が走った。同様の懸念は8月にも浮上し、ハイテク株が一時的に下落した。しかしAIトレードはこれらの逆境から回復し、活発に行われている。

スリベント・ファイナンシャルのスティーブ・ロウ最高投資戦略責任者は「ここには巨大なチャンスがあるが、結局は何が価格に織り込まれていて、何が織り込まれていないかの問題だ」と指摘。「成長は大きく織り込み済みであり、それが懸念材料の一つだ。期待を裏切るリスクが依然として数多く存在するからだ」と述べた。

S&P総合500種の強気相場が4年目に入る中、AIトレードについて強気の見方を維持する市場参加者がいる一方で、ハイテク企業などの決算発表を数日後に控えて警戒すべき兆しも指摘されている。

<巨額の設備投資が焦点>

AIアプリケーション関連のインフラ構築には巨額の設備投資が必要なため、投資家は設備投資のペースとそのリターン、そして支出が収益性を損なう可能性に注目していると話す。

バークレイズのストラテジストによると、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット、メタ・プラットフォームズ、オラクルなど、巨大なクラウド・AIインフラを抱える「ハイパースケーラー」企業の設備投資は、2024年から27年にかけてほぼ倍増し、年間5000億ドルに達すると予想されている。

ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの首席投資ストラテジスト、マイケル・アローン氏は、これらの企業は巨額の現金を生み出しているが、「支出が成長率を上回るペースで増加し、フリーキャッシュフローの利益率を浸食していないかを注視することが重要だ」と述べた。

AI拡大を支える技術投資の重要性を考えると、投資が予想外に減速する可能性も警戒すべきだと投資家は言う。

ナティクシス・インベストメント・マネジャーズ・ソリューションズのポートフォリオストラテジスト、ギャレット・メルソン氏は、「より大きなリスクは過剰投資ではない。現時点で十分な投資をしていないことだ」と述べた。

共通の利益を追うAI企業間の「循環的」契約は、何か起こった際に余波を広げる可能性もある。例えばエヌビディアが最近発表した、オープンAIへの最大1000億ドルの投資だ。

BCAリサーチのアイリーン・タンケル米国株首席ストラテジストは今週のレポートで「AIエコシステム内の相互依存関係は不穏なものには見えないが、(中略)これほど緊密な財務・業務上の結びつきには重大なシステミックリスクが存在する」と指摘した。

ハイテク企業は多額の現金を保有するが、よりレバレッジを高めてAI投資や買収を行ったりするようになれば、警戒感が広がるかもしれない。

フェデレーテッド・ハーミーズのシニア・ポートフォリオ・マネージャー、アナスタシオ・テオドロ氏は「こうした大きな発表を見ると、負債や増資ではなく、キャッシュフローによって資金が手当てされていることを確認したくなる」と述べた。

<投資収益率に注目>

バークレイズのストラテジストらは今後12―18カ月間のAI投資に楽観的だが、データセンターやAI関連設備の拡張を支えるためのエネルギーインフラが不足する兆候を懸念してもいる。

バークレイズの米国株戦略責任者、ベヌ・クリシュナ氏は最近の記者団との電話会議で「電力問題は、おそらく最も注意すべき重要な要因のひとつだ」と述べた。

投資家はまた、需要が減少する、あるいは巨額の投資が期待通りの成果を上げていない兆候が出ないかどうかにも注視している。

PNCのマー氏は「潜在的な引き金のひとつは、突如として需要が当初の予想を下回りそうな状況が現れることだ」と述べた。

マディソン・インベストメンツの最高投資戦略責任者、パトリック・ライアン氏は、AIに起因する収益と生産性の大幅な向上を示す具体的な兆候はまだ多くないと指摘。「これら全ての投資が本当に見返りをもたらすのか疑問が生じ始めれば、(中略)非常に危険な事態になるだろう。それがどのように起こるのか、必ずしも具体的には予想できないが」と語った。

ロイター
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