コラム

MLBナショナルズの「まさかの逆転負け」に怯えるオバマ陣営

2012年10月15日(月)10時49分

 メジャーリーグのポストシーズンは、既にアメリカン・リーグ、ナショナル・リーグ共に、今年新設された「ワイルド・カード・ゲーム」と、プレーオフの第1段階「ディビジョン・シリーズ」が終わり、各リーグの「リーグ優勝決定シリーズ」が始まっています。

 ヤンキース・ファンの私としては、現在進行中のタイガース戦に関しては、言いたいことは色々あるのです。黒田博樹、イチロー、ラウル・イバネスの3選手だけが奮闘しているものの、他の選手が「極貧打」に落ち込む中、3選手の活躍が全く活かされないという状況に鬱憤がたまっているというのが正直なところです。14日にはジラルディ監督が激昂して退場処分を食らっていますが、その気持も分かりすぎるほど分かる感じがします。ですが何分、現在進行形の話ですので、ここでは止めておきます。

 ただ、14日のゲームに関して、黒田投手については「黒田、3失点も援護なく敗戦」などという一言で語ることはできない入魂の投球を行っており、8回の2失点も歴史的誤審を契機としたものだということだけは申し上げておきたいと思います。この点を伝えなければ、この試合を伝えたことにならず、それでは黒田博樹という選手(ひと)の魅力を確認することができないからです。

 それはともかく、その前段階の「ディビジョン・シリーズ」の展開もどれも大変にドラマチックで、どの組み合わせも手に汗握る濃い内容の展開で、野球の醍醐味を感じさせる勝負が多かったのです。中でもドラマチックだったのが、先週12日深夜、ワシントン・ナショナルズによるセントルイス・カージナルスに対する「まさかの逆転負け」でしょう。

 ナショナルズというチームですが、実は2005年に新設された全く新しいチームです。新設というのは実は正確ではなく、カナダのケベック州に本拠を置いていた「モントリオール・エキスポズ」というのが全身で、エキスポズが人気低迷から一時「MLB連盟預かり」ということになり球団削減の話が出たこともありました。それをワシントンが誘致したものですが、内容的にも全くの新チームと言っていいでしょう。

 このナショナルズ、昨年までは全く優勝戦線に絡むことはなかったのですが、今年は開幕当初から勝ち進み、MLB30球団の中で唯一勝率6割を越える成績で、堂々とナ・リーグ東地区で優勝を果たしています。その快進撃は「政治都市ワシントンの民主党系と共和党系を超党派で熱狂させた」ということで、今回のディビジョン・シリーズも大変な盛り上がりになりました。

 ちなみに、監督は日本のオールド野球ファンには懐かしい名前である、元読売巨人軍のデーブ・ジョンソン(現在はデービー・ジョンソンと名乗っています)で、米球界復帰後には、指導者として多くのチームを成功に導いている「若手育成型」のマネージャーです。

 色々なエピソードもあった中で、対カージナルスのディビジョン・シリーズは2対2のイーブンで、最終の第5試合にもつれ込みました。ナショナルズの本拠地、ナショナルズ・パークでの第5戦は、19歳の若手スター、ブライス・パーパーの本塁打などで3回までに6対0のリードとなり、一旦は楽勝ムードが漂ったのです。

 ですが、その後は投手陣がモタモタする中で、じわじわ点差を詰められ、8回の表には6対5まで1点差に詰め寄られました。ところが、8回ウラにはシーズンの途中でアスレチックスから獲得した渋いキャッチャーのカート・鈴木選手(日系3世)がタイムリーを打って7対5と突き放したのです。ここで、首都の4万を越えるというファンは大騒ぎとなりました。

 さあ、9回の表、2点リードを守れば、エキスポズ時代も含めて球団史上初の「リーグ優勝決定シリーズ進出」となるわけです。リリーフのストーレン投手は先頭のベルトランに2塁打を打たれ、その後三進を許したもののツーアウトまで漕ぎ着けました。ところがそこから四球を2個与えて満塁、そして2点タイムリーで同点。更に、もう1本2点タイムリーを食らって9対7と逆転されてしまいました。

 球場内はシーンと静まり返りました。そして9回のウラは、前の回から続投のカージナルスのモッテ投手の前に、簡単に三者凡退に倒れ万事休すとなったのです。たった10数分の間に、全てが崩壊し、消えて無くなったと言っても良いでしょう。野球というのは本当に恐ろしいゲーム、そして大監督のラルーサ氏が引退し主砲プホルスも去ったにも関わらず、カージナルスという古豪チームは底力を見せたとも言えるでしょう。

 一部には、このナショナルズの逆転負けを「オバマの選挙戦」になぞらえる向きもあるようです。9月の党大会後には世論調査で6%のリードをつけて再選間違いなしなどと言われていたにも関わらず、10月3日のTV討論では全くいい所がなくロムニーに惨敗。現在では全国ベースの支持率でロムニーに逆転されている、そのオバマの「失態」がこのナショナルズの敗戦に重なって見えるというのです。

 一方で別の見方もあります。1回や2回のTV討論で勝って浮かれている今の「ロムニー・ライアン」こそ、今回のナショナルズの敗戦を教訓にすべきだというのです。苦手の外交問題などでは、オバマに再逆転を許す可能性もあるというのですが、確かにワシントン・ナショナルズのチームカラーは「真紅」つまり、共和党のカラーである「赤」なので、こちらの解説も何となくリアルな感じもするわけです。

 もっとも、首都ワシントンでのプロ野球チームということでは、ワシントン・セネタースというチームが19〜20世紀にかけて80年ぐらいあったわけですが(ツインズやレンジャースはその歴史を継承しています)、やたらに熱しやすく冷めやすいファンが、政治家に評価を下すように応援したり、突き放したりしてダメにした歴史があるようです。その意味で、野球を政治に絡めて論評するのは止めておいた方がいいのかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 3
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 9
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story