コラム

グローバリズムは日本の若者の敵なのか

2011年10月17日(月)10時20分

 格差反対などのスローガンを抱えたデモが先進各国に拡大しています。その多くが、グローバリズムへの反対を口にしており、例えば日本では現在大きなヤマ場を迎えているTPPへの反対論などが入っているようです。

 そもそも、今回の一連のデモ自体が純粋にアメリカの若者による着想とは言えず、カナダ経由でヨーロッパ発の「オルタ・グローバリズム」が入ってきたものとも言えるわけで、まあ、カルチャー的にはそういう「ノリ」になるのでしょう。

 ただ、日本の場合はどうなのでしょう? 例えば若者の格差問題を解決する際の「敵」というのは、現時点では、グローバリズムなのでしょうか?

 私はどうも違うように思うのです。世界各国と比較すれば、まだまだ優秀な人材、つまり分厚い知的労働層を抱えていながら、国際競争力を守れないのは、日本の場合は、国内志向の強い老人支配に責任があるのではないかと思うのです。

 例えば、エレクトロニクス産業がいい例です。90年代までは折角優位に立っていたのに、世界の若者のライフスタイルが全く分からずに携帯・音楽再生機器・情報端末の巨大市場で「全敗」したくせに、その反省もないまま重電やエネルギーなど最終消費者相手の面倒なマーケティングの不要な、いわば利権産業に逃避し、今また原発事故で苦境に立っている、そうした一連の判断ミスの背後にあるのは極めて国内的なサラリーマン文化だと思います。

 丁度、日本のメーカーでは、過去の企業買収失敗や、子会社の資金の不正流用など、経営者のモラルが問われる事態が数件同時に進んでいますが、こうしたケースを根絶するには、形式主義化した「日本流コンプライアンス」ではなく、世界標準による本質論が通用する風土作りが欠かせません。若者を食い物にする、いわゆる「ブラック企業」の根絶も同じことです。

 経済を低迷させ、若者の雇用を奪っているのは、グローバリズムという外敵ではなく、国内の老人支配と、既得権益層なのではないでしょうか?

 確かにアメリカや韓国の場合は、グローバリズムに最適化した部分と、そうでない部分の格差が社会的に許容範囲を越えているという感覚があるのでしょう。ですが、日本の場合は違うと思うのです。むしろ、グローバリズムに適応できていない層が過去の蓄積や利権を握って離さない、そのことが社会の閉塞を招いているのではないでしょうか?

 具体的には、日本の場合の格差とは、世襲や学閥といった不公正な個人的なコネクションで機会の不均等が起きているというよりも、硬直化した採用政策のために世代間の格差として現れてきている部分が大きいように思います。その点も含めて、今回の「日本での格差是正デモ」にはもう少し「敵の正確な見定め」を期待したいと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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