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【写真特集】発達障害の生きづらさをありのままに伝えたい 写真家と当事者たちの共創
Un/Masked
Photographs by Naoto Yoshida

<リジー>ロンドンの南西にある街に住むリジーは、帰省したときには元農場にぽつんと立つ家で猫たちと遊んだり、野原を散策するのが好きだ
<非定型的な神経や脳の発達を個性として尊重し、合理的配慮・調整を社会全体で促していく「ニューロダイバーシティー(神経や脳の多様性)」が注目される。発達障害の生きづらさをありのままに伝えるために、写真家・吉田直人と当事者たちが選んだ写真表現>
PHOTOGRAPHS BY NAOTO YOSHIDA IN COLLABORATION WITH LIZZIY PARKER, REEVE HART, AND PRIYANKA PATTNI
心身をつかさどる脳には個性がある。だからこそ周辺環境の受容や反応には個人差がある。人間の発達の多様性・多層性に対する社会的理解が進みつつある一方で、依然として残る偏見が、自閉スペクトラム症やADHD(注意欠如・多動症)の当事者たちに生きづらさを抱かせている。彼らを取り巻く「社会的規範」はしばしば、自身の興味や関心を語ることや、心身を落ち着けるための振る舞いを抑制する。それがトラウマとなり、精神的健康の問題につながることも多い
以前、私が日本の障害当事者の就職活動における社会的課題について報道した際、インタビューをした発達障害のある人々の生活経験を、過度に単純化して伝えていたのではないかという違和感が生じた。それを機に、私は滞在先のイギリスで、発達障害のある人々の日常を単純化せず、ありのままに描くために、当事者である友人たちとこの作品を制作した。私は、彼らが落ち着いて安らぐ環境に赴き、肖像や身の回りの品を撮影して生活体験を聞き取った。彼らは自身の生活をポラロイドカメラで撮り心象を記した。
右)「植物の手入れをしていると、自分を大事にしようと思える」──リジーの部屋にはもともと温室だったスペースがある。陽光が降り注ぐ自分の世界で、彼女は植物と共に暮らしている
左上)「ADHDと自閉症が頭の中でいつもけんかしてるみたいな感じ」──両者は重なることもあれば相反することもある。その時どちらに偏っているのかは、例えば自室の散らかり具合にも表れる
左下)「実家へ帰るのは思い出がありすぎてつらい」「いつも自分は駄目だと思ってた」──大人になってADHD・自閉症と診断されたリジーの幼い頃はトラブル続き。両親との衝突も日常茶飯事で、実家は安らぎとトラウマが同居する複雑な場所だ
非定型的な神経や脳の発達を個性として尊重し、合理的配慮・調整を社会全体で促していく「ニューロダイバーシティー(神経や脳の多様性)」という概念が注目されている。私たちは「当事者の写真」と「当事者による写真」の両方を通じ、「障害の有無」という二項対立では捉え切れない、生活環境における個人の内面の機微を複層的に伝え、社会が醸成してきた態度による障壁に疑問を投げかける。
撮影:吉田直人(よしだ・なおと) 1989年千葉県生まれ。京都府在住の写真家・記者。2017年より、パラスポーツや、「障害」「ケア」をテーマに取材を行ってきた。24年、英国UCA芸術大学写真修士課程修了。本作品は、25年度の英国王立写真協会(RPS)主催の国際写真展に選出されている
【連載21周年】 Newsweek日本版 写真で世界を伝える「Picture Power」
2025年6月24日号掲載
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