Picture Power

【写真特集】薄明の中で捉えた、高次脳機能障害の妹の心の断片

REFLECTIONS ON EMPATHY

Photographs by NORIKO HONDA

2022年01月08日(土)16時20分

empa05.jpg

ずっと続くものと信じ込んでいた日常は、なたで切り落とされたように一変した。今、妹の暮らしを傍らで見ながら、同じ朝や夜は二度と訪れないのだと改めて知った。あの頃、病室の窓の外は遠い世界のように思えた


empa06.jpg

けがや病気による脳の損傷で起こる高次脳機能障害は「見えにくい障害」とも呼ばれる。人によって損傷箇所は異なり、障害はさまざまだ。妹も当初は自身の障害に気付くことが難しく、病前にできていたことができなくなったのを理解するのに時間がかかった。その歯がゆさと焦りからか、一つのことに執着し、怒りだすと止まらなくなったり、ひどく泣いたり笑ったりといった「感情失禁」が時々起こる。そんなとき、私は彼女が落ち着くまでじっと待つことを覚え、妹は経験とリハビリから感情への向き合い方を工夫してきた


empa07.jpg

「お父さんとお母さんは今うちにいるよ」と妹が言う。気配がするのだと


empa08.jpg

退院して間もない頃、「以前の私は多くのことを自分で判断して、一人でできていたんだね。今の私には難しいよ」と妹は言った。その静かな口調を私は忘れられない。返す言葉がなかった


empa09.jpg

妹の入院先へは毎日バスで大きな橋を渡って行った。薄明の時、車窓を見つめていると、私の意識はどんどん心の中に向かっていった。 向こう岸の病室から、妹も同じ河原を眺めていたかもしれない。その時、彼女は何を思っていたのだろう

Photographs by Noriko Honda

撮影:ほんだのりこ
東京生まれ。個人の暮らしの中で起きる疑問や感情を視覚的な物語としてつづり、社会へとつなげる作品を制作。さまざまな姉妹に撮影とインタビューを行い、家族の在り方を問う『あねいもうと』、安心できる場所をテーマとした『Security Blanket ~安心毛布』などの作品を発表し、高い評価を得ている

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国大手銀行、高利回り預金商品を削減 利益率への圧

ワールド

米、非欧州19カ国出身者の全移民申請を一時停止

ワールド

中国の検閲当局、不動産市場の「悲観論」投稿取り締ま

ワールド

豪のSNS年齢制限、ユーチューブも「順守」表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 5
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story