コラム

米大統領選の「超重大変化」で得する人は誰?(パックン)

2023年02月11日(土)16時47分

50の中のたった一つの州だが、大統領候補はアイオワの党員集会で決まりがちだ。特に民主党ではその効果が大きい。アイオワが初戦になった1972年以来、11回の大統領選挙の中で7回もアイオワでの勝者が民主党の正式な大統領候補となった。中には、ジミー・カーターやバラク・オバマのように、大穴候補と思われていた人が「アイオワ効果」で急に集金力と求心力を高め、一気にフロントランナーに変身を遂げた例もある。その変貌ぶりはM-1グランプリ優勝の前と後のミルクボーイさんを考えたらわかるかな。

そうです! バラク・オバマはアメリカのミルクボーイです!

そんなアイオワ・マジックを狙って、大統領候補たちは異次元のお金と気力をアイオワでの選挙運動に懸ける。

お金の数字がわかりやすい。前回の大統領選だと、集会直前の1月だけで候補たちはアイオワに広告費などで700万ドル以上を投じたようだ。

「エタノールが動力源」の政治家たち

気力については、数値化しづらい。だが候補たちの選挙活動を見ていると、米大統領という世界一の権力者を目指すなら、まずアイオワの田舎町の食堂に入る必要がある。そこで脂っこいものをいただきながら、アイオワの農家や主婦、お年寄りなどとアイオワの雑談をしないといけないようだ。

2020年のアイオワ予備選に向けて、民主党のトップ候補たちがアイオワの選挙運動にかけた日数は半端ない。ジョー・バイデン候補は58日間。バーニー・サンダースは57日。エイミー・クロブシャーは69日。一人ずつ、この一つの州に2カ月分の時間をつぎ込んでいるわけ。全50州に同じ時間をかけるとしたら、8年間もかかる! 4年に一度の選挙なのに、無理無理!

そして、偏っているのは金と時間配分だけではない。もっと深刻な問題は、政策もアイオワ寄りになってしまうことだ。有名なのは、アイオワがアメリカ一の生産量を誇るバイオ燃料の「バイオエタノール」。その原料のトウモロコシを育てる農家の票が欲しくて、手厚い補助金などを公約に盛り込む傾向はよく批判されている。しかし、やむを得ない結果だ。ホワイトハウスへの道を突っ走りたいならまずアイオワでアクセルを踏まないといけないから。エタノールで動く車は少ないが、エタノールで動く政治家はたくさんいる。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story