コラム

欧米のウクライナ援助の裏にある不都合な真実(パックン)

2022年03月31日(木)17時30分

「同じ白人」というバイアスは援助にどの程度影響したのか(ウクライナ難民と交流するローマ教皇フランシスコ、3月)Guglielmo Mangiapane-REUTERS

<海外メディアが思わずポロリしたように、欧米がウクライナへの支援に力を入れるのは自分たちと顔や肌色が似ている「同じ文明の人」だから......でもそれではいけないはず>

自慢じゃないけど......というと、大体自慢が来る。でも、今回は違う。

自慢じゃないけど、僕はロシア軍によるウクライナ侵攻の前に、ある現象が起きると予想して当てていた。このコラムにはその予想は書かなかったが、報道番組のスタッフには話していたので、証人として呼んでもいいよ。

僕が予想したのは、「中近東やアジア、アフリカ、南アメリカなどで紛争が起きるときと違って、またロシアが実力を行使したチェチェン、南オセチア、シリアなどのときとも違って、今回はヨーロッパ諸国がすぐ立ち上がって抵抗するだろう!」ということ。......まあまあ普通のことだ。

だが、その理由の考察が鋭かった:「まず、ウクライナの近隣諸国はロシア(ソ連)に侵略、支配された記憶があるから。ウクライナはNATO加盟国に隣接するから。ロシアに占領されたらヨーロッパのパワー・バランスが大きく変わるから。それに、民主主義国に生まれ変わろうとしているウクライナを防波堤に、権威主義の侵食を止めたいから」などと、歴史や地政学的なファクターを挙げた。まあ、これも普通だね。

僕の自慢じゃない点はここからだ!

「あと、言いづらいが、欧米の皆さんは、自分たちと顔や肌色が似ている『同じ文明の人』が被害者になると、反応が違うから」という、「醜い」理由も述べていたのだ。

そして、これが当たってしまった。本当に自慢じゃない。逆に当たって残念な予想だ。

アフリカよりもシリア、それよりもウクライナ

当事者の見た目によって対応が変わるという傾向を、僕はアメリカでよく見てきた。黒人の子供は白人の10倍もの確率で銃で殺害されているが、ジョンベネちゃんのような金髪の白人少女が殺されると、注目度が桁違いになる。有色人種の間にコカインが流行ったときは「終身刑も含めて麻薬使用者への取り締まりを厳しくしよう!」という声が多かったのに、白人の間に鎮痛剤オピオイドの乱用が流行ると「治療の支援をしよう!」と、世論も政策も変わる

国外への向けた対応も違う。トランプ前大統領は大統領命令でイスラム圏など7カ国からの入国を禁止。さらに中南米からの難民を「侵略」として国境に米軍を派遣して、メキシコとの国境沿いに壁を建てようとした。その一方、議員との会議ではハイチからの移民をアメリカから追い出し、ノルウェーのような国からもっと移民を受け入れるべきだと話したという。つまり、肌色の白い方を優先したいのだ。本人の肌の色はオレンジだけどね。

僕はヨーロッパで暮らしたことはないが、外から見るとアメリカと同じ傾向がうかがえる。毎年毎年、コートジボワールやナイジェリア、ギニア、エリトリアなどからヨーロッパに向かう途中の地中海で溺れる移民・難民は数千人いるが、「要塞ヨーロッパ」のガードは堅い。ところが2015年、比較的ヨーロッパ系に近い顔のシリア人の子供が砂浜で溺れている写真が出回ると、その姿に心打たれドイツ、フランス、イギリスなどは一気にシリア難民に門戸を開いた。

しかし、その門は最近また閉まってきている。そこへきて、今回ウクライナから難民は自動的に特別難民指定を受け、EU圏内に滞在し、学校に通い、医療を受け、就業することもできる超特別待遇を受けられるという。アフリカ難民よりシリア難民。シリア難民よりウクライナ難民と、待遇の差は明らかだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トルコ裁判所、最大野党党首巡る判断見送り 10月に

ワールド

中国は戦時文書を「歪曲」、台湾に圧力と米国在台湾協

ビジネス

エヌビディアが独禁法違反、中国当局が指摘 調査継続

ビジネス

無秩序な価格競争抑制し旧式設備の秩序ある撤廃を、習
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story