コラム

裏切られ続けるクルド人の苦境に思うこと

2019年10月24日(木)17時40分

そんな悲惨な歴史の中でも、今回の裏切りは特にひどい。2014年にアメリカは、テロ組織ISIS(自称イスラム国)の支配圏拡大を止めるべく、またもクルド人の協力を要求。武器と金を渡し、訓練と後方支援を行ったが、戦闘自体はほとんどクルド人が担当し、犠牲もクルド人が負った。ISIS対戦で亡くなったアメリカ兵は200人以下のところ、命を落としたクルド人は1万1000人にも上る。そして、高くついたが、勝利はできた。全ての領土を奪還したあと、ドナルド・トランプ米大統領が2018年12月に「僕らはISISに勝った」と宣言したが、そのときの「僕ら」というのはクルド人を差しているはずだ。

そして、そんなトランプが、そんな「僕ら」をまた裏切った。10月6日に、トルコのエルドアン大統領と電話会談した後、シリアからの米軍撤退を発表し、側近や専門家の反対を押し切って実施。すると、誰もが予測したこと、最悪の展開が起きた。トルコ軍がシリア北部のクルド自治区に侵攻した。トルコ系の民兵がクルド人の市民を殺した。クルド難民が大勢逃げた。クルド人の女性政治家が車から引き降ろされ、射殺された。収容所からISIS戦闘員や関係者が逃走した。この5年間で大量の血を流して勝ち取った自由、自治、領土、安全、平和が一瞬にして取り消された。失礼ながら、このニュースをみて、またまた「クルド人に生まれなくてよかったな~」と思った。

多大な代償を払いながら戦ってくれた仲間を裏切った大統領。対立国のシリア、イラン、ロシア、そして反米テロ組織のISISを利する決断を衝動的にした大統領。その後の残酷な結果を見ても、トルコの侵略を認める形の作戦一時停止に合意して「クルド人は大喜びだ」「文明にとって最高の日だ」と豪語した大統領。そんな、非道徳的で無知なトランプ大統領を見たときも、またまた「アメリカ人に生まれなくてよかったな~」とも思った。 あっ......!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

香港のビットコイン・イーサ現物ETF、来週取引開始

ビジネス

氷見野副総裁、決定会合に電話会議で出席 コロナに感

ビジネス

ホンダ、旭化成と電池部材の生産で協業 カナダの新工

ビジネス

米家電ワールプール、世界で約1000人削減へ 今年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story