コラム

ビジネスマン失格のトランプは実は「グレイテスト・ショーマン」!

2019年05月29日(水)17時45分

今回の訪日でもトランプはショーマンシップを発揮したが…… Jonathan Ernst-REUTERS

<95年までの10年間で合計11億ドル以上の損失を出していたトランプはビジネスマンとしては最低、しかし視聴率を叩き出すショーマンとしては超一流?>

米中通商交渉、北朝鮮の非核化、イラン核合意離脱、日米関係などはどうなる......?!

ちょっと待って。進展を予測する前に実験に付き合ってください。

1)まず近くのATMに行って、僕に3000万円を振り込んでください。
......終わりました? これで振り込み詐欺の被害者の気持ちが分かるはず。よかったですね。でも、これはあくまでウォーミングアップに過ぎない。

2)次は本題。今回はATMに行って3000万円を引き出して、溝に捨ててください。待って、だめだ! 古紙の資源ごみに出してください。  
......終わりました? では、明日も同じことをやってください。明後日も。しあさっても。その先もずっと、毎日3000万円を捨てるプロセスを、10年間(!)続けてください。
......終わりました? これでドナルド・トランプ米大統領の気持ちが分かるはず。よかったですね。

トランプが手掛ける事業は1985~94年の10年間で11億ドル以上の損失を計上していた。1日3000万円のペースだ。納税申告書の写しを入手したニューヨーク・タイムズが5月初旬のスクープ記事でこんな衝撃的な事実を明かした。トランプはなんと何年かは内国歳入庁(IRS)が記録する中で、アメリカで一番お金を失った人だったという。よっ! アメリカ・ファースト!

これと並ぶ大スクープだったのは、昨年10月にニューヨーク・タイムズの一面を飾った記事。それもリークされたトランプ一族や彼らの事業の税金関連資料に基づくものだったが、要点は、住宅や団地などの建設や経営で大儲けしていた父のフレッド・トランプから、ドナルドくんは3歳の時から今の価値で20万ドル相当の年間給与をもらったり、295もの方法で合計4億1300万ドル以上の財産を受け取ったりしたということ。さらに、さまざまなからくりで、贈与税、相続税、所得税などの税金から免れることができたという。メーク・アメリカ・ダツゼイ・アゲイン!

トランプは公には「父からは100万ドルを借りただけ」と、自分の力で莫大な財産を作ったと何度も主張しているが、記事内容が正しければ、父からのお金は何百倍も大きな額だったし、借りたのではなくもらったもの。そして、国から隠したもの。そして、いろいろな商売に使って失敗したもの。結局、父からの大事な財産も含めて10年間、1日30万ドルを溝に捨て続けたのだ。僕はパパからもらったクリスマス・セーター1つでもなかなか捨てられないのに......。

もちろん、これらは匿名のソースがリークした資料に基づく新聞記事なだけで、真実であると僕は確信をもって伝えられない。さらに、どれも大昔のことなので、真実であっても、犯罪行為があったとしても、時効となり、当局が調べたりすることはないはず(昨年の記事を受けて、連邦控訴裁判所の判事でトランプの姉であるマリアン・トランプ・バリーに対する裁判所の司法委員会の調査が始まったが、直後にトランプ判事が辞任したため、調査も途中で終了した)。でも、刑事責任は問われなくても、真実だったら嫌だよね。でも、大丈夫!トランプは「フェイクニュース」と、全面否定している。安心だね!
 
本当はどうなんだろう? 真相を突き止めるには、本物の納税申告書を見るしかない。でも、トランプは絶対にそれを見せたくはないようだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元に現れた「1羽の野鳥」が取った「まさかの行動」にSNS涙
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 8
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story