コラム

勝利にとり憑かれて薬に頼るロビイストが銃規制に挑む『女神の見えざる手』

2017年10月19日(木)19時00分

『女神の見えざる手』(C)2016 EUROPACORP – FRANCE 2 CINEMA

<凄腕のロビイストが銃規制に挑む過程と苦悩が、ロビー活動とPRを一体化させた現代のロビイストの実態を浮かび上がらせる>

ジョン・マッデン監督の新作『女神の見えざる手』の主人公は、ワシントンの大手ロビー会社コール=クラヴィッツ&ウォーターマンに身を置く凄腕のロビイスト、エリザベス・スローンだ。彼女は銃支持派団体から、女性の銃保持を推進することで、新たな銃規制法案を廃案に持ち込む仕事を依頼されるが、自身の意思に反するためきっぱりと断る。上司のデュポンは、最上の顧客の要求に応じない彼女に激怒し、クビを告げる。

すると、そんなエリザベスに、銃規制に賛成の立場をとる小さなロビー会社ピーターソン=ワイアットのCEO、シュミットが接触してくる。彼女は数人の部下を引き連れてピーターソン=ワイアットに移籍し、かつての同僚コナーズと銃規制法案をめぐって熾烈な駆け引きを繰り広げることになる。政界への影響力や資金力で優位に立つ銃支持派団体に対して、エリザベスは大胆かつ巧妙な戦略を次々に打ち出し、形勢を逆転させるかに見えるが、その先には予期せぬ事態が待ち受けている。

銃規制をめぐるロビー活動の現場

圧倒的な情報量とたたみかけるような展開で、ロビー活動の現場を描き出すこの映画で、まずなによりも注目を集めるのは銃規制をめぐる問題だろう。だが、テーマはそれだけではない。この映画には、緻密な脚本と構成によって多くの伏線がちりばめられている。それをどう読むかによって、ドラマの意味も変わってくる。

実は物語は、スパーリング上院議員を委員長とする聴聞会に、エリザベスが証人として召喚されるところから始まる。彼女は、コール=クラヴィッツ&ウォーターマン在職中に手がけた仕事で、不正を行った疑いをかけられている。冒頭に書いた物語は、そこから時間をさかのぼった過去の出来事で、この映画では、現在の聴聞会と過去の銃規制法案をめぐる駆け引きが巧みに結びつけられている。法案の行方に危機感を持った銃支持派団体とコナーズのグループは、エリザベス個人のあら探しを始め、不正の証拠を見つけ出し、その結果が聴聞会に集約されていく。

映画の冒頭には、エリザベスがロビー活動をカードゲームに例えて、勝利へのこだわりを語るモノローグが挿入される。だからといって、伏線が駆け引きに関わるものばかりとは限らない。エリザベスの心理を想像するための手がかりになる伏線も埋め込まれている。

不眠症で睡眠薬を使い、眠気を覚ますために精神刺激薬を常用

筆者がここで特に注目したいのは、彼女が薬を手放せないことだ。部下と仕事の話をしているときも、パーティに出席したときも、途中でトイレに行き、薬を服用する。上司からクビを告げられる場面も印象に残る。それまで堂々としていた彼女は、眠れないために薬に頼っていることを指摘されると、表情が微妙に変わり、ムキになる。

こうしたエピソードは、聴聞会の展開とも密接に結びついている。弁護士と綿密な打ち合わせをしたエリザベスは、上院議員からどんな質問をされても、合衆国憲法修正第五条をたてに、証言を拒否しつづける。ところが、慢性の不眠症で睡眠薬を使っているだけでなく、眠気を覚ますために精神刺激薬も常用していることを指摘されると、表情が変わり、自分は薬物中毒ではないと抗議し、後戻りできなくなる。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

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