コラム

人工島の軍事拠点化ほぼ完成--南シナ海、米中衝突のシナリオ

2017年07月03日(月)14時59分

さらに、航空機を運用する基地として人工島を使用するならば、航空機を格納するハンガーや整備用施設だけでなく、パイロットや整備員に加え、滑走路及び航空保安施設の維持整備や航空管制に従事する人員等が地上業務を行う執務室や司令部、さらに彼らが長期滞在するための生活用施設も必要になる。航空機を運行するためには、数百人規模の人員が必要になり、滑走路以外の多くの施設も必要とされるのだ。

「ビッグ3」には、航空機を運用するためのこうした施設がほぼ完成している。庁舎や兵舎等の建物及び燃料貯蔵庫・真水貯蔵庫は既に建設され、各礁に4つずつ軍事用資材等を補完すると見られる大規模な地下構造物が建設されている。

ハンガーの数を見ると、各礁に少なくとも1個飛行隊以上の戦闘機に加え、H-6K等の大型爆撃機や哨戒機・輸送機などが配備可能である。さらに、各礁には航空基地の防空能力が構築されている。2016年12月には、南沙諸島の人工島に高射砲が配備されていることが確認されていたが、対空ミサイル・システムの配備も進められている。

対空ミサイルも発射可能

「ビッグ3」には、対空ミサイルを格納すると思われるシェルターが8個ずつ建設されていたが、ファイアリー・クロスには、さらに4個のシェルターが追加された。これらシェルターは、衛星画像から見る限り、上部が開閉式になっており、シェルターの中から対空ミサイルを発射することができる。

対空ミサイルを発射するためには、発射指揮システムに探知目標情報を元にした発射諸元を入力しなければならないが、各礁には、対空ミサイル・システムを構成するレーダーが複数整備されている。また、周辺海域の水上目標を探知するためのレーダーや情報共有のための通信用アンテナも整備されている。これらレーダー群は、各礁とも、一定の区画内に集中して建設されている。

中国は、間もなく、西沙諸島及び南沙諸島の人工島に戦闘機等の軍用機を配備し、基地防空も行えるようになるということだ。また、南シナ海の大部分の海域において、艦船の動静を把握できるようになる。これら情報は、衛星等を用いたネットワークを通じて、中央軍事委員会聯合参謀部にも共有される。

中国は、米国と軍事衝突すれば勝利できないものの、米国が軍事力を行使しない範囲において、南シナ海における軍事的優勢を保てるようになるだろう。しかし、あくまで、「米国が軍事力を行使しない範囲において」という条件が付く。米国が、オバマ政権時代のように軍事力行使を避けるのであれば、中国の所要は満たされる。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

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