コラム

人工島の軍事拠点化ほぼ完成--南シナ海、米中衝突のシナリオ

2017年07月03日(月)14時59分

米国が中国を信用しないのと同様に、中国も米国を信用していない。同年10月に実施された「航行の自由」作戦(FON Ops:Freedom of Navigation Operations)は、中国に、やはり米国は信用できないと思わせるものであった。中国は、自らが南沙諸島を軍事拠点化するのは、米国が軍事挑発を繰り返し地域の平和を脅かすからだと言う。

中国は、2016年1月に、ファイアリー・クロス礁に建設した滑走路に、借り上げた民間機を用いて離発着試験を行い、続く4月には急患輸送を理由に軍用機を着陸させた。中国は、南シナ海における人工島に建設した施設を軍事的に利用する意図をこの時点で明確にしたのだ。

国際的約束より「自己の生存」

中国は、南シナ海の人工島に軍事施設を建設するのは「必要な防衛施設の建設」であって「軍事化だと非難するのは間違っている」と主張する。中国のこのような理屈は、日米には意味不明である。国際法に従わず、国家間の約束も守らない中国は、単なる無法者に思える。しかし、全ての国家が国際法や条約その他の国際的な約束を守ることを前提とするのは、ユートピアニズムに陥っている証拠である。現実には、自己の生存が国際的な約束に優先される。

特に、権威主義的な国家における「国家の生存」は「統治体制の生存」を意味し、レジーム・チェンジ(統治体制の転換)に関わると考える安全保障の問題に敏感に反応する。中国にとっては、南シナ海の実質的な領海化は、中国の安全保障に関わる問題なのだ。

国際社会において、政治的な問題は法的な議論で解決できない。中国では、2016年7月に国際仲裁裁判所が下した司法判断について、法的な問題とは捉えられず、外交上の失敗と受け取られている。

中国の南シナ海軍事拠点化は、中国の発展を妨害する(と中国が信じている)米国の軍事行動を南シナ海から排除するためである。少なくとも、米海軍が南シナ海で行動する際に、コストを強要する(コスト・インポージング)ことを目的としている。

例えば、米海軍の対潜戦などは、中国が最も嫌がる軍事行動の一つだ。中国の戦略原潜の動きが米海軍に探知されていたのでは、米国に対する核抑止の最終的な保証に成り得ない。領海化すれば、米海軍は「中国の海」たる南シナ海において無害通航ではない行動はできなくなる。さらに、中国は、領海内の軍艦の無害通航さえ認めていない。中国は、それを、軍事力を以て他国に認めさせようというのである。

海上での優勢を確保するためには、航空優勢が不可欠だ。そのために、中国は、人工島に滑走路を建設する必要があったのである。それも、戦闘機が離発着できる滑走路が必要なのだ。しかし、まず、燃料補給ができなければ、緊急着陸以外に滑走路を使用する意味はない。燃料補給ができて初めて航空優勢を確保する空域を広げることができる。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

筆者の過去記事はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権、ミネソタ州に捜査官「数百人」追加派遣 女性

ビジネス

米商務省、中国製ドローン規制案を撤回 トランプ氏訪

ビジネス

米政権が刑事訴追警告とパウエル氏、利下げ圧力強化の

ワールド

イラン抗議デモで死者500人超、トランプ氏「強力な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画をネット民冷笑...「本当に痛々しい」
  • 4
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    飛行機内で「マナー最悪」の乗客を撮影...SNS投稿が…
  • 10
    決死の嘘が救ったクリムトの肖像画 ──ナチスの迫害を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story