コラム

人工島の軍事拠点化ほぼ完成--南シナ海、米中衝突のシナリオ

2017年07月03日(月)14時59分

しかし、米国が、中国の「平時における軍事的優勢」を無視して軍事行動を行えば、中国が軍事拠点化した人工島が、かえって中国を危険な状態に陥らせる可能性もある。中国が軍事的優勢を誇示する中、これを無視して米海軍が行動すれば、中国としても引く訳にはいかなくなるからだ。

トランプ政権は、南シナ海における中国の意図を受け入れる訳ではない。2017年5月25日(現地時間)、米海軍ミサイル駆逐艦"USS Dewey (DDG-105)"が、「ビッグ3」の一つであるミスチーフ礁の6海里以内の海域において、ジグザグ運動(戦術運動)や溺者救助訓練を行った。単に通り抜けただけではなく、訓練を行ったのだ。これは、国連海洋法条約が規定する無害通航権を行使したものではない。領海内で訓練を行えば、無害通航に当たらないからだ。

「航行の自由」作戦なら許せるが

中国は、南シナ海の人工島を領土だと主張しているので、中国の主張に従えば、人工島から12海里は中国の領海ということになる。しかし、トランプ政権が初めて行った「航行の自由」作戦は、人工島から6海里という非常に近い海域で、各種訓練を行った。

中国としては、単に通過するだけの形式的な「航行の自由」作戦であれば、「追尾、監視、警告」という形式的な対応で済ませることができたが、人工島のすぐそばで訓練を行われたのでは黙っていられない。さもなければ、南シナ海軍事拠点化の意味はなくなってしまう。人民解放軍は、2017年1月に海軍指導部の人事を刷新し、南シナ海重視の姿勢を鮮明にしている。

トランプ大統領が中国の南シナ海における軍事的優勢を許容できないのであれば、近い将来、米海軍は、中国の人工島から運用される戦闘機等を排除し、巡航ミサイルや空爆によって軍事施設を破壊しなければならなくなるだろう。中国の南シナ海における人工島の軍事拠点化はそこまで進んでしまったのだ。


プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

筆者の過去記事はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBは現行の政策運営枠組み撤廃でより厳格にインフ

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P上昇、終盤に買い GDP

ワールド

米・ウクライナ、復興投資基金設立協定に署名 米財務

ワールド

原油先物急落、サウジが増産示唆 米WTI21年3月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story