コラム

今、本当に必要な経済政策を提案する

2021年10月18日(月)12時07分

ここでも再度、社会の問題が出てくる。

実は、日本は、世界的に、少なくともアジアの中では、もっとも教育に関心のない社会である。受験戦争は低年齢化しているが、これは楽な教育を受けるための手段だ。高校生で苦労しないようにと、要は楽に学校を乗り切り、良い学歴を身につければよい、という社会の教育の中身への無関心がある。これは一部では、改善の動きも見られるが、まだまだ少数派だ。

それは、伝統的に、この70年、教育を軽視してしまう社会になったことが根本にある。

アジアのほかの国の受験戦争は酷いほど激しいし、大学、大学院への進学もアジアの親たちは非常に熱心だ。

この差は決定的だ。中国、韓国に、人材の質でも抜かれる日は遠くない。いやすでに抜かれていると思う。

日本が経済成長するためには、人材が必要だ。科学技術の発展も要は人だ。そして、そのために、大学などの研究機関にただ金をつぎ込むのは間違っており、時間をかけて人を育てることが必要だ。そして、より有効なのは、より低年齢での幅広い層への基礎教育である。

これが、日本の学校関係への投資の第二の誤り、最大の誤りだ。

手間と金は初等教育に重点をおくべきだ。幼児教育へも将来は広げるべきだ。公的教育にできることは、基礎力、基礎的な思考力、柔軟性、多様な発想をもたらす基礎的な人格形成が最大、唯一のことであり、社会において最重要なことだ。

経済政策の金、エネルギーをここに集中的に投入すべきだ。

子供は日本の隅々で育つのがいい

そして、最後に、国の基礎力を挙げるための教育は多様性、深みを社会にもたらすことであり、そのためには、東京や大都市での教育よりも、様々な地域で育つことが必要で、それぞれの地域で、教育をすることが重要だ。地方創生ではなく、現在の全国の各地域で、子供を地域社会で育てることが、日本社会の長期的な多様性の維持、創造性の発揮に大きく貢献、いや必須のはずだ。そのために、子育て、学校教育は東京などの大都市よりも地方の環境(自然だけでなく、教育者の質という面で)が優れているという状況を生み出すための国家的な政策が必要だ。教育中心の地方創生(言葉は嫌いだが、一般に言われている)政策が必要なのだ。これは、また別の機会に議論したい。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ

ビジネス

主要企業の26年度、営業益12%増を予想 6月から

ビジネス

ポルシェAG、独DAX指数から除外 スカウト24採

ワールド

リスボンのケーブルカー脱線事故で死者17人に、当局
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story