コラム

日本はコロナ危機ではなく人災だ

2020年04月23日(木)11時50分

なぜ日本だけができるのか? 危機が他の国ほど深刻でないからである。米国でやったら、あっというまに国家破産である。

一方の政府も危機感がないから、世論対策で消費者を含む全国民に14兆円を配ることにした。もし危機が深刻なら、14兆は消費者に一円も配るべきではないし、その余裕はなく、すべては失業者、倒産防止のための資金繰りの金融支援に投入するべきだし、そうしないと持たない。

医療崩壊は起きている。すでに大きな危機だ、という意見が大多数だろう。しかし、ニューヨークの惨状に比べれば、危機ではない。いまだに、新型コロナ専用とそれ以外の病院の分業を完全に実施せずに行っているのは、それでもぎりぎりしのいでいる、しのげるという認識があるからだ。現場が悲鳴を上げているとしても、全体としては今までの制度の延長でしのげると思っているから、抜本的な変更、分業の完全実施を行っていない。

なぜ必死で韓国に学ばないのか

保健所も、紙と鉛筆と電話で、感染者の経路を追っている。これは太平洋戦争当時の戦車に竹やりで向かう以上の戦いで、ロケットに弓で対抗しているようなものだ。韓国に学び、韓国のやり方を100%まねするべきだと思うが、そうしないのは、スマホを用いて、最先端のテクノロジーを総動員しなくてもしのげると思っているからだ。

人々も10万円を政府に配らせて勝利だというネット世論が盛り上がるぐらい余裕があるのである。危機ならばカネはすべて医療と失業者に集中させなければいけない。

しかし、それでもコロナは徐々に収まっていくだろう。そして、日本は韓国と異なり、SARS、MERSから学ばなかったように、今回のコロナでも根本的な変化が起きず、次の感染症の危機のときも、危機感のない対応でしのごうとするだろう。そして、いつか本当の危機がやってきて、そのときに初めて、危機感が生まれ、日本も危機対応をする体制に代わっていくだろう。

今回のコロナ危機で、政府の対応が諸外国に比べて周回遅れの対応になってしまったのは、危機感が国民全体になかったからであり、今ですらないからであり、それは相対的には欧米ほどの危機ではなかったし、今でもないからである。

そして、経済的な悲鳴が出ているのは、危機ではないのに、中途半端に危機だと煽った、政治家、メディア、人々が多数派であったからである。そのために、余計な対策ばかりに奔走し、マスクや10万円を配るという危機感のない対応をすることなり、知事たちも政治活動に熱心で、休業をお願いするのにカネを配るという世界的に例を見ない、人々に媚びた対応をしたのである。余裕がありすぎたのだ。本当に危機なら、休業は必須だし、カネをもらわなければやらないというような行為は許されないはずだ。今のパニックはコロナによるものでなく、真の危機感のない人々が大騒ぎしたことによって起きた人災だ。

危機ではないし、危機感もない。これが日本のコロナショックの本質だ。

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2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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