コラム

MMT理論とその批判者がともに間違っているのはどこか?

2019年07月22日(月)18時40分
MMT理論とその批判者がともに間違っているのはどこか?

今の日本では、将来に生きる投資が妨げられている fatido-iStock.

<MMT理論は、財政支出が常に有効かつ効率的という前提に立っているが、それは間違っている>

MMT理論とその批判者がともに間違っているのはどこか?

今更だが、整理しよう。まっとうな有識者ですら意外とわかっていない。

MMT理論が間違っているのは、財政支出が常に有効かつ効率的だ、という前提に立っていることだ。

ワイズスペンディング、意味のある財政支出であれば、インフレにならないかぎりいくらでもやっていい、ということにはならず、財政支出のコストはインフレだけでなく、ほかの有効な支出を機会を奪うことにあり、そちらのコストのほうが重要だ。これが一番のポイントだ。

すなわち、財政支出で何を行うかが重要であり、それは政策同士の比較だけでなく、民間投資とどちらが社会、経済全体のために望ましいか、という観点がまったく抜け落ちている。財政に制約はないが、そのコストはインフレではなく、資源の有効活用という点で、いわゆるクラウディングアウトを起こしてしまう、という問題である。金利が上がらなければクラウディングアウトが起きていないと考えるのはナイーブで、低金利であっても、経済における投資可能金融資本は限定的であるから、民間投資と政府支出とどちらが望ましいか考える必要がある。

MMTは今さえよければいい理論

さらに、この点でもっとも重要なのは、財政に制約は、従来言われているほどはないが、すなわち、単年度の財政赤字自体はそれほど気にすることはないが、制約がまったくない、ということはありえないという点である。すなわち、財政支出規模が100兆円程度である日本の場合、これを120兆円にすることは可能かもしれないが、やはり1000兆円の支出は無理であることは間違いない。この900兆円分を、今年支出するべきか、10年後から100年後にかけて10兆円ずつ追加支出するべきかは、そう簡単には判断できない。追加900兆円財政支出の異時点間の比較はできないのである。

MMTは今を生きる理論であり、今さえしのげばよい、という考え方なので、現在に強いバイアスがかかっているから、放っておくと過大に支出してしまうので、歯止めが必要だ。それを保守的に見積もるのが、赤字を出さない、ということであり、そのときのことはそのときの人々で責任を取る、現在のコストを将来に残さない、ということである。

なぜ今が大事か、というと、1930年代の大恐慌を背景にMMTは1940年代に生まれているから、今の危機をしのぐことが最重要なのは、絶対に正しいということは立証できないが、それほど間違っていない、という状況で生まれたものなのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。著書に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

ニュース速報

ワールド

「指導者の裏切り許さない」、環境活動家グレタさんが

ワールド

米韓首脳、北朝鮮との対話維持で協議 「厳しい」認識

ワールド

アングル:ウイグル人権法案、中国が香港問題以上に反

ビジネス

日銀、生産判断の下方修正を検討へ=関係筋

MAGAZINE

特集:仮想通貨ウォーズ

2019-12・10号(12/ 3発売)

ビットコインに続く新たな仮想通貨が続々と誕生── 「ドル一辺倒」に代わる次の金融システムの姿とは

人気ランキング

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 3

    ウイグル人権法案可決に激怒、「アメリカも先住民を虐殺した」と言い始めた中国

  • 4

    次期首相候補、石破支持が安倍首相を抜いて躍進 日…

  • 5

    サムスン電子で初の労組結成──韓国経済全体に影響す…

  • 6

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 7

    『鬼滅の刃』のイスラム教「音声使用」が完全アウト…

  • 8

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」…

  • 9

    ペットに共食いさせても懲りない飼い主──凄惨な退去…

  • 10

    イランで逮捕された「ゾンビ女」の素顔

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」組の絶望

  • 3

    日米から孤立する文在寅に中国が突き付ける「脅迫状」

  • 4

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 5

    ウイグル人権法案可決に激怒、「アメリカも先住民を…

  • 6

    韓国保守派のホープを直撃した娘の不祥事

  • 7

    5G通信が気象衛星に干渉し、天気予報の精度を40年前…

  • 8

    『鬼滅の刃』のイスラム教「音声使用」が完全アウト…

  • 9

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 10

    サムスン電子で初の労組結成──韓国経済全体に影響す…

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    「愚かな決定」「偏狭なミス」米専門家らが韓国批判の大合唱

  • 3

    「日本の空軍力に追いつけない」アメリカとの亀裂で韓国から悲鳴が

  • 4

    元「KARA」のク・ハラ死去でリベンジポルノ疑惑の元…

  • 5

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たG…

  • 6

    GSOMIA失効と韓国の「右往左往」

  • 7

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」…

  • 8

    GSOMIA継続しても日韓早くも軋轢 韓国「日本謝罪」発…

  • 9

    日米から孤立する文在寅に中国が突き付ける「脅迫状」

  • 10

    何が狙いか、土壇場でGSOMIAを延長した韓国の皮算用

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!