コラム

MMT理論とその批判者がともに間違っているのはどこか?

2019年07月22日(月)18時40分

日本で言えば、それほどの危機ではなくても、1960年代の景気循環であれば、高度成長期なので、景気の波を平らにすることによって、成長力を犠牲にしない、成長する貴重な期間(60年代の10年間とすると)を無駄にせず、景気悪化で短期的な資金不足から長期的投資を手控えないように、景気悪化を防ぐことが優先された。つまり、このときは景気対策が成長戦略だったのである。

今は、景気悪化を防ぐのは、今年いい思いをするだけのことで、10年後の成長率とはほぼ無関係であるから、短期のカンフル剤を打ちすぎて、長期の活力がなくなったり、単純に長期投資のためのリソースを短期のその場しのぎでつかってしまって成長機会を失ったり、ということになる。

では、どの程度、今支出するべきなのか。

人為的な低金利にも副作用がある

それを判断するのが、長期金利であり、国債市場なのである。金利が高い、ということは将来にリターンが得られる投資でなければ今するべきではない、ということになるし、資金を得てその場しのぎ、消費してしまうのにもコストがかかる、ということである。

低金利の時代に入ったとしても、市場で低金利に決まるということと、中央銀行に無理やり低金利、マイナス金利にさせる、というのはまったくことなる。

これと富士通総研の早川氏などは金利は重要、という言い方をしているのだが、もっと直截に言うと、異時点間の資源配分をあえて中央銀行にゆがめさせて、経済の持続可能性の最適な道を壊しているのである。

それがリフレ政策であり、MMT理論を使った政策提言なのである。

だから、理論的にはまったく異なるこの二つの現実政策マーケットでの主張者も一緒であり、素人であってもセンスがあれば、どちらも似ているように聞こえてくるのである。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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