コラム

MMT理論の致命的な理論的破綻と日本がもっともMMT理論にふさわしくない理由

2019年07月25日(木)16時30分

しかし、彼ら、つまりMMTを主張する人々が気づいていないのは、インフレになるかどうかではなく、その財政支出が効率的なものであるかどうか、財政支出をするべきかどうか、というところが最大のポイントだということだ。しかも、其の点においてMMT理論は理論的に破綻していることに気づいていない。

ケルトンは、日本ではインフレが起きないのだから心配することはない、と言っていることから、彼女こそがMMT理論をもっとも理解していないことは明らかだが、MMT理論自体はそれほどおかしくない、と言っている人々も間違っており、MMT理論には根本的な欠陥がある。

すなわち、MMT理論から出てくる財政支出を拡大すべきだ、という主張は、その支出が有効なものか立証されていない。MMT理論は正しくないという指摘に対し、それは財政支出が効率的になればよいと言って反論するだろうが、実は、MMT理論自体が、財政支出が効率的な水準になることを阻害するどころか、そのメカニズムを破壊するところから理論をはじめているところに致命的な欠陥がある。すなわち、国債は中央銀行が引き受けるメカニズムになっており、国債市場が機能しないようになっているところである。

この金利が上昇することを無視するか、上昇しないという前提では、現在の支出が過度に膨らみ、将来の資源を奪うことになるのである。つまり、異常な低金利で無駄な投資が行われ、資本が残っていれば、将来のもっと有効な技術に投資され、もっと大きなリターンが得られた投資が行われる機会を奪うのである。

ポピュリストが支持する訳

異常な低金利で財政支出を過度にすることは、現在の民間投資を阻害するクラウディングアウトを起こすのであるが、さらに深刻な問題は、異時点間の資源配分を阻害し、将来の投資機会を奪うことにあるのである。金利とは現在と将来の資本の相対価格であるから、この金利市場の価格付け機能を破壊、あるいは無視すれば、そうなることは必然であり、無駄な支出が現在過度に行われることになるのである。

もっと理論的に厳密に言えば、国債金利を内生化していないために、貨幣量は内生化されていると主張しているが、金利が内生化されれば、内生化された貨幣量はもっと低い水準に決まるはずである、ということになる。

したがって、MMT理論は金利市場を無視、あるいは意図的に消去し、あるいは破壊することによって、理論的にさえ破綻しているのである。

しかし、だからこそ、金利市場を破壊して、将来の投資機会や資本を現在使ってしまおうとするポピュリズムエコノミストに支持されるのである。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英外相がシリア訪問、人道援助や復興へ9450万ポン

ワールド

ガザで米国人援助スタッフ2人負傷、米政府がハマス非

ワールド

イラン最高指導者ハメネイ師、攻撃後初めて公の場に 

ワールド

ダライ・ラマ「130歳以上生きたい」、90歳誕生日
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story