コラム

米経済学者のアドバイスがほとんど誤っている理由

2016年10月02日(日)22時06分

Jason Reed-REUTERS

<日本にアドバイスするアメリカの大物経済学者は、なぜ間違ったことばかりを言うのか。日銀には、「永久緩和」以外の選択肢はない> (ベン・バーナンキ前FRB議長も7月に日本を訪れた。写真は、2009年)

 経済学者にとっては、いつまでも問題があるとされる日本経済は格好の評論の的だ。

 ただし、ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマンなどの引退した学者は言わずもがな、様々な著名実力経済学者まで、日本経済への提言、特に金融政策に関する提言は、的外れなものがほとんどだ。それはなぜなのだろうか。

ヘリマネなど持ち出すのはいい加減な証拠

 第一には、まじめにやっていないからである。

 これはセミリタイアの方々に多いが、現役の方にも一部存在する。要は、他人事であり、また日本の論壇、経済学者を見下しているのである。だから、よく調べもせずに、勝手な、雑なことを言うのだ。

 例えば、ヘリコプタマネーという政策をまじめに論ずることは、まともな経済学者ではありえない。しかし、一部の米国経済学者は、他に手がないならやってみたらよい、と言う。それは無責任に適当に言っているからなのだ。彼らが、米国で、FED(米連邦準備理事会)にヘリコプターマネーでもやってみたら、とは絶対に言わない。

【参考記事】日銀の今回の緩和を名付けてみよう──それは「永久緩和」
【参考記事】日銀は死んだ


 第二に、日本経済の現状認識が間違っているからだ。

 日本に来てみて、経済が豊かなのに驚いた、と多くの経済学者、経営者が言う。報道されている日本経済は、もはや破綻寸前、という認識が広がっているのが問題だ。1998年は、そういう面はあったと思うが、それでもそれは不動産関連の不良債権処理が問題で、バブル構造から抜け出せない構造不況業種(本当は構造の問題ではなく、バブルに乗りすぎただけなのだが)への債権が徐々に劣化していっただけのことで、銀行セクターを除けば、日本経済は破綻することはなく、根本はしっかりしており、銀行が復活すれば、復活できる力は維持していたのだ。

 現在は、それとは比べ物にならないどころか、経済は順調で、長期成長力が落ちているのは事実だが、それは世界的な現象、経済の歴史上、無限に成長を続けることはあり得ないから、受け止めるしかない。それが深刻だと捉えるとしても(いや、むしろ、そう考えるからこそ)、それを政策で対応しようなどというのは間違いで、不可能なことに全力で取り組めばコストだけが残る。ましてや、それを金融政策で何とかしようというのは、経済学の常識からも、一般的な常識からもあり得ない。

 第三に、やはり学者だからだ。

 これは悪い意味の学者、ということで、理論上の大問題、学問上は大問題であるために、熱くなりすぎて、世の中がどうなろうと、その「異常な」知的好奇心から、問題を解明するために、実験してみたくなるのだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story