コラム

韓国総選挙、与党惨敗で慰安婦合意はどうなるか

2016年04月15日(金)22時21分

 第2に、政権人事の交代がどの程度あるかどうか、である。韓国メディアや政界からは、朴大統領が「人的刷新」を行い、新たな気持ちで国政運営に臨むよう求める声が大きくなっている。外交安保分野での人事交代の可能性は現状ではそれほど高くないが、朴政権で在任期間が最長の尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官や、国政運営を統括する李丙琪(イ・ビョンギ)青瓦台秘書室長などの交代がもし行われることになれば、日韓関係にも影響が出てくる。但し、長官人事は国会で人事聴聞会を開かなければならず、朴大統領にとっては容易な決断ではない。対日関係については、近く交代予定の駐日大使人事も気になるところである。

来年末の大統領選挙を見据えて

 第3に、合意に反対してきた野党、特に議会第1党になった共に民主党が今後どのような立場を示すかにも注意を払いたい。これは民主党内でどのグループが主導権を握るのかと関わっている。合意時の文在寅(ムン・ジェイン)党代表は、「合意無効と再交渉」を主張してきている。選挙公約集にもその旨盛り込まれた。しかし、選挙戦を指揮した金鍾仁(キム・ジョンイン)非常対策委員会代表は、「政府間の合意なので修正は難しい」(3月1日の元慰安婦らとの会合)旨述べるなど、反対論者とは異なる立場を見せている。したがって、文・前代表を中心とする進歩的性向が強い「親盧」派と、金代表ら中道的な「非盧」派のどちらが党運営をリードするのかによって、慰安婦合意への対応にも違いが出てくる可能性がある。金代表には選挙勝利の実績があるが、党内は依然「親盧」派が多数とされる。加えて、文・前代表は大統領選出馬をにらんで党内影響力の維持・拡大を目指すだろう。

 そのため、与野党とも夏前に予想される新指導部選出のための党大会は、来年末の大統領選挙に向けた韓国政局の行方を見通すためだけでなく、韓国の対日世論ひいては日韓関係に影響しうるという点からも注目である。

プロフィール

西野純也

慶應義塾大学法学部政治学科教授。
専門は東アジア国際政治、朝鮮半島の政治と外交。慶應義塾大学、同大学院で学び、韓国・延世大学大学院で政治学博士号を取得。在韓日本大使館専門調査員、外務省専門分析員、ハーバード・エンチン研究所研究員、ジョージ・ワシントン大学シグールセンター訪問研究員、ウッドロー・ウィルソンセンターのジャパン・スカラーを歴任。著書に『朝鮮半島と東アジア』(共著、岩波書店)、『戦後アジアの形成と日本』(共著、中央公論新社)、『朝鮮半島の秩序再編』(共編、慶應義塾大学出版会)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story