コラム

韓国総選挙、与党惨敗で慰安婦合意はどうなるか

2016年04月15日(金)22時21分

朴槿恵は今こそ、説明不足で独善的と嫌われた政治スタイルを変えられるか Kim Hong-Ji-REUTERS

 4月13日の韓国総選挙は与党セヌリ党の惨敗であった。国会300議席のうち、「共に民主党」123、セヌリ党122、国民の党38、正義党6、無所属11という結果になり、与党は議会過半数を失っただけでなく第2党に転落したのである(選挙前はセヌリ146、共に民主102、国民20、正義10ほか)。選挙前に第1野党が共に民主党と国民の党に分裂したこともあり、事前世論調査では与党優勢が伝えられていただけに、韓国内のメディアは驚きをもって選挙結果を伝えた。残り任期1年10ヶ月の朴槿恵大統領の国政運営には大きな打撃である。来年12月の大統領選挙に向けて政局が展開していくこともあり、朴槿恵政権の求心力は急速に弱まっていくだろう。

朴槿恵政権の求心力低下は必至

 なぜ与党は惨敗したのか。有権者の投票行動を詳細に分析する必要があるが、韓国メディアや専門家が伝える理由は大きく2つ、与党の内紛と厳しい経済状況である。与党は立候補者選びの過程で、朴大統領に近いグループ(親朴派)と距離を置くグループ(非朴派)が激しく対立し、この党内権力闘争に国民の非難が集まった。そのため、従来の与党支持層が投票に行かなかったり、野党に投票したとみられる。また、韓国経済の厳しさ、特に若者層の就職難は、朴政権を独善的と批判してきた20~30代有権者をより多く投票場に向かわせたようである。つまり、与党支持層の離脱と政権批判層の積極的投票である。朴大統領の下でさらに「保守化」した政権と与党に対し、穏健保守層と中道層が強く反発したのではないだろうか。

 韓国総選挙との関連で、日本からみた一番の関心事は、この選挙結果をうけて慰安婦合意はどうなるのか、ということであろう。選挙結果が日韓関係を含む外交問題にどのような影響を及ぼすのか見通すのは容易ではない。しかし端的に言えば、合意を履行していくには韓国内の環境はさらに厳しくなった。但し、合意は両国政府間の約束であり、安倍首相・朴大統領ともに履行への強い意思を示し続けていることを忘れてはならない。それを前提としつつ、今後の慰安婦合意履行を含む日韓関係を考える際の留意点として次の3つを挙げておきたい。

【参考記事】慰安婦問題、歴史的合意を待ち受ける課題
【参考記事】【ウェブ対談:池田信夫×冷泉彰彦】慰安婦問題の本質とは何か

 第1に、与党惨敗を受けて朴槿恵政権の求心力低下は避けられず、韓国内で反対世論の強い慰安婦合意を履行していくには、朴大統領のさらに強い意思に加え、国民の理解を得るためのより一層の努力が必要となる。国政運営スタイルが時に独善的であり、国民への説明が不十分と批判されてきた朴大統領が、今後国政運営スタイルをどのように変えるのか、変えないのかに注目していく必要がある。従来通りのスタイルで合意履行を強行すれば、野党や世論の激しい反発を招くことになりかねない。

プロフィール

西野純也

慶應義塾大学法学部政治学科教授。
専門は東アジア国際政治、朝鮮半島の政治と外交。慶應義塾大学、同大学院で学び、韓国・延世大学大学院で政治学博士号を取得。在韓日本大使館専門調査員、外務省専門分析員、ハーバード・エンチン研究所研究員、ジョージ・ワシントン大学シグールセンター訪問研究員、ウッドロー・ウィルソンセンターのジャパン・スカラーを歴任。著書に『朝鮮半島と東アジア』(共著、岩波書店)、『戦後アジアの形成と日本』(共著、中央公論新社)、『朝鮮半島の秩序再編』(共編、慶應義塾大学出版会)など。

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