最新記事
シリーズ日本再発見

「演歌も好き」英バンド「スーパーオーガニズム」を率いる日本生まれのオロノが魅せる、ならず者の音楽とは?

2023年01月12日(木)15時31分
鈴木智彦(ライター)

BG3A7187-20230112.JPG

ラスト、観客を次々と「WHITE STAGE」に上げたオロノ。「VOTE FOR ORONO」とデザインされたTシャツを着た菅原達也(め組)の姿も。 撮影:鈴木智彦

「評価されたいとか、売れたいと思って音楽をやっていない」

彼女は何度もそう繰り返した。加えてオロノにはジレンマがある。日本に複雑な感情があるからだ。自分は日本が嫌いで逃げた。その日本で活動せねばならないのがつらい。

とはいえ、彼女が無自覚に日本を愛しているのも間違いない。たとえば、オロノは海外に出てから日本食の美味しさに気づいたと話す。また日本の家族や友人は大好きだと断言する。郷土愛を極限まで煮詰めれば、残るのは季候と食べ物と人間だ。

「日本では売れたくない。でもメンバーや収入を考えれば日本市場は無視できない」

相反する感情に挟まれ、オロノは日本公演の度に七転八倒し、カウンセリングも受けている。だが愛しながら憎むという二律背反を故郷に感じるのはオロノだけではあるまい。オロノの表現は彼女が傷付き、立ち上がる度に深くなる。我々観客には彼女の闘争の成果を無責任に楽しむ特権がある。

待望の日本公演は東京の1月13日の東京 ZEPP DiverCityから始まる。以後、15日の大阪 NAMBA HATCH、16日の名古屋 DIAMOND HALL、17日には広島のCLUB QUATTRO、そして18日の福岡DRUM LOGOSがラストだ。

本来、生活音を加えるなど重層的に音を作り込むスーパーはライブ向きではない。が、彼らは世界ツアーをこなし、独自のライブスタイルを作り込んでいる。あれだけ演ればひどい失敗もあったろう。実際、オロノがステージで号泣したこともあった。

ハンターS.トンプソンはこう書いている。「限界は超えた人間にしかわからない」(『ヘルズエンジェルズ』 ハンター・S・トンプソン著。訳・石丸元章)

土壇場を踏んだ経験がアーチストのライブを成熟させる。オロノのベビーフェイスに騙されてはならぬ。彼女は手練れだ。そして生来、反骨のならず者なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中