最新記事
シリーズ日本再発見

「演歌も好き」英バンド「スーパーオーガニズム」を率いる日本生まれのオロノが魅せる、ならず者の音楽とは?

2023年01月12日(木)15時31分
鈴木智彦(ライター)

BG3A4484-20230112.JPG

FUJI ROCK FESTIVAL '22の「WHITE STAGE」に登場。フジロックの出演は4年ぶりだった。 撮影:鈴木智彦

オロノと父親の関係を考えるとき、思い出すエピソードがある。

2020年、社会学者で小説家の岸政彦氏が、NHKの『100分de名著』でブルデューの『ディスタンクシオン』を解説していた。番組を観て、我々が自身の選択だと思い込んでいる趣味でさえ、社会的地位や経済階級の影響を受けていると知った。

私は30年以上、ヤクザを取材してきた。たくさんの暴力団員にインタビューし、記事では必ず趣味を質問する。書画、骨董、料理、陶芸、マリンスポーツ、飛行機の操縦......音楽が好きでレコードを出した親分もいる。

しかし、2000人以上の暴力団に聴いても、クラシック音楽の鑑賞を趣味と答えた暴力団員はいなかった。その事実に気づかされ、私はひどくショックを受けた。

アウトプットはインプットの蓄積を発酵させて完成する。ミュージシャンの場合でいえば、知らない言葉は撃てず、聴いたことのない曲は歌えない。オロノの音楽が父親の影響を受けているのは疑いようがない。

対してオロノの母親は、岡村靖幸やユーミンのリスナーだった。いうまでもなくJ-POPの代表的アーチストであり、オロノがメインストリームのポップスを指向する理由かもしれない。

意外なことにオロノは「演歌も好き」という。ハイブリッドで多国籍な文化資本を持った彼女の音楽性が、オロノのオリジナルとしてアウトプットされている。 

2017年、ファーストシングル「Something for Your M.I.N.D.」をリリースすると、瞬く間にオロノの人生は変貌した。有名ミュージシャンたちが絶賛したのは、そこにオロノにしかないオリジナリティがあったからだろう。

音楽ライターならあれこれミュージシャンの名前を挙げ、有名人の権威によってオロノの評価を伝えようとするのかもしれない。しかし私は幸か不幸か、ヤクザを取材するライターだから、その手の評論はググってくれればよい。

スーパーのファンは若者が多いと思っているが、オロノ曰く「ライブではおっさんが多い」らしい。だとすればオロノの歌に両親が聴いてきた音楽を感じ、郷愁を抱いている可能性はある。

とはいえ、80~90年代の日本の音楽シーンはさほど健全ではなかった。本場の文化に触れたと確信した際、私のような俗物はオリジナリティの文化を下に見て、ひどい場合はそれを蔑む。日本の洋楽ブームにはそんな空気が確かにあった。

幸い、オロノはそうしたいびつさと無縁である。存外、海外マーケットで評価された秘密もそのあたりにあって、日本人が世界で戦うための方法論に繋がるかもしれない。ただしそう書けばオロノはきっと嫌がるだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マクロスコープ:政府、少額貨物の消費免税廃止を検討

ワールド

ロシア外相、イラン核問題巡る紛争解決に向け支援再表

ビジネス

グーグルのAI要約、独立系出版社からEU独禁法の申

ビジネス

OPECプラス有志国、9月に55万バレル増産へ ゴ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中