最新記事
シリーズ日本再発見

改正健康増進法から1年、見えてきた日本の課題

2021年04月01日(木)17時00分
高野智宏
喫煙所

喫煙者で混み合う屋外喫煙所(2020年4月) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<たばこの規制を強化する法律の施行から1年がたった。屋内での「望まない受動喫煙」は確かに減ったかもしれないが、そのしわ寄せが屋外に及んでいる>

昨年4月1日、改正健康増進法が全面施行された。これは「望まない受動喫煙の防止」を目的とした法令であり、原則屋内禁煙をベースに、公共機関をはじめ商業施設や宿泊施設、オフィスに至るまで各種施設での分煙ルールを定めたものだ。

なかでも議論の的となったのが、飲食店における規制の強化だった。課された分煙ルールは、①喫煙専用室(飲食不可)、②加熱式たばこ専用喫煙室(飲食可)、③喫煙目的室(飲食可)、④喫煙可能室(飲食可)の4種類。

これまでどおり喫煙も飲食も可能な③と④はどう違うのか。まず、③の「喫煙目的室」とは、シガーバーや煙草販売店など、その名のとおり喫煙をサービスの目的とする店舗のこと。一方、④の「喫煙可能室」とは、客席面積が100平方メートル以下かつ資本金が5000万円以下の小規模店舗に限定される経過措置だ。

これら規制の対象となる飲食店は全国では約45%だが、「従業員のいる飲食店は面積に関わらず喫煙禁止」という「上乗せ」条例が設けられた東京都の場合、規制の対象となる店舗は全体の約84%へと跳ね上がった。

元経済産業省官僚の経済評論家、岸博幸・慶應義塾大学大学院教授は、改正健康増進法に憤り、とりわけ①と②に必要な喫煙室の設置義務を問題視する。

「飲食店に課された厳しい規制は、憲法で保障された"営業の自由"を侵害している。喫煙室を設置する場合、(上限100万円の)助成金が出ますが、営業の自由を侵害しているわけだから、せめて設置費用の全額をたばこ税を活用して国が負担するべきだと思います」

喫煙所が閉鎖され、ポイ捨て問題が続出

あれから1年――。ちょうどタイミングの重なったコロナ禍もあり、居酒屋など特に酒類の提供を主とする飲食店にとっては厳しい状況が続いている。では、1年を経た今、客側はどう受け止めているのだろうか。

「お酒は大好きだけど、たばこの煙が嫌いな私にとっては待ちに待った法令の施行でした」とは、45歳の女性会社員。「お酒や料理の香りがたばこの煙で台無しにされることもないし、服や髪の毛にたばこのにおいが付くこともなくなり、とても嬉しいです」

一方、「時代の流れですから、仕方がないですね」と力なく笑うのは、30年以上に渡り紙巻きたばこを愛煙する52歳の男性会社員だ。「1回の食事で数度、喫煙室にたばこを吸いに行きます。以前と比べれば面倒ですが、周りの非喫煙者に気を遣わなくていいのはいいですよね」と、利点も見出す。

屋内を原則禁煙とすることで、望まない受動喫煙を防止する目的はある程度達成できていると言えそうだ。しかし、そのしわ寄せが屋外に及び、吸い殻のポイ捨て増加という新たな問題を生んでいる。

違反者には2000円の過料を科すという、東京都千代田区の路上喫煙禁止条例が施行されたのは、2002年のこと。これを機に各地で屋外喫煙所の設置が進んだものの、その数は決して十分なものではなかった。

そして昨年からのコロナ禍により、3密を避けることを目的に、日本全国のオフィスビルや商業施設で喫煙所が相次いで閉鎖された。もともと数が少ない屋外喫煙所も同様だ。今なお閉鎖中の喫煙所も少なくない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、いかなる対イラン作戦にも関与せず 緊張緩和に尽

ワールド

イスラエル巡る調査結果近く公表へ、人権侵害報道受け

ビジネス

利上げの可能性排除せず、経済指標次第=米シカゴ連銀

ビジネス

欧州インフレの軟着陸、可能だが確実ではない=IMF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中