最新記事
シリーズ日本再発見

世界最古級の「千年企業」が幾つも......日本の老舗の強さの根源は同族経営にあり

Keeping It in the Family

2020年01月23日(木)15時30分
エミリー・タムキン

世界最古の企業「金剛組」は1400年以上も事業を継承してきた(写真は1930年1月に撮影された金剛組棟梁ら) Public Domain

<創業から何世紀も続く老舗企業が日本に数多く存在するのは、同族経営によって企業理念を次世代へと継承しているから>

現在も続く世界最古のホテルがあるのは、パリでも、ロンドンでも、ローマでもない。ギネス世界記録によれば、世界最古のホテルは日本の山梨県にある「西山温泉慶雲館(けいうんかん)」だ。

その創業は、飛鳥時代にさかのぼる慶雲2年(西暦705年)。さらに、世界で2番目、3番目に古いホテルも日本の温泉旅館で、それぞれ兵庫県城崎温泉の「古まん」(717年創業)と、石川県粟津温泉の「法師」(718年創業)だ。

ホテルだけではない。日本には世界最古クラスの老舗企業がたくさんある。

神社仏閣を建設する大阪の建設会社「金剛組」は、飛鳥時代の578年に創業された世界最古の企業で、2006年に建設会社の子会社となるまで一貫して同族経営を続けた。同社は、現在まで実に1400年以上も事業を継承している。

長子相続制の伝統

日本の老舗「千年企業」はまだまだある。京都の「田中伊雅仏具店」は885年頃に始まって以来、仏具製造業を続けている。愛知県一宮市の「中村社寺」は神社仏閣を建設する会社で、その歴史は970年までさかのぼる。京都の「一文字屋和輔(わすけ)」は日本最古の和菓子店で、平安時代の1000年に創業された。

表層的に見れば、日本のように長い歴史を持ち、独自の経済を発展させてきた国であれば、長年続く老舗企業が多く残っているのは驚くことではない。こうした老舗企業の多くは、いずれも地元に根差した同族経営の酒蔵や旅館だ。8世紀頃に人が行き交う街道沿いで、商売が始まったのだろう。

日本は、明治維新後の1870年代に西欧諸国以外では初めて工業化への道を歩み始めた。だがその前から、農業経済は十分に発展しており、「都市に住む人々はかなり洗練されていた」と話すのは、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所のヒュー・パトリック所長だ。都市部に暮らす人々によって、強固な消費市場が形成されていた。

とは言え、それで説明がつくのは、老舗企業がかつてどのように創業したかという経緯だけ。その企業が今日まで経営を続けてこられた理由は、必ずしも見えてこない。その要因の一つとして日本の長子相続制(長男が家の財産のすべてを相続するしくみ)を挙げるのは、コロンビア大学のデービッド・ワインスタイン教授(日本経済)だ。かつて日本の企業の多くは、経営者一族の主に長男が継承していた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中