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アフリカは日本のまちづくりから学べる、気候変動への対処法を

How a Japanese system can help African cities adapt to climate change

2019年05月28日(火)18時50分
セス・アサレ・オクェレ(大阪大学工学研究科特任助教)、マシュー・アブンイェワ(豪ニューカッスル大学建築・構築環境学部講師)、ステファン・コフィー・ディコ(米シンシナティ大学地域開発計画専攻非常勤講師)

ナイジェリア最大の都市ラゴス peeterv-iStock.

<気候変動の影響を受け、都市化も急速に進んでいるサハラ砂漠以南のアフリカ。日本のmachizukuri(まちづくり)がその対策に役立つ理由とは>

サブサハラ(サハラ砂漠以南)のアフリカは、気候変動による影響を既に受けている。そして、状況は悪くなる一方だ。

状況悪化の理由は複雑だ。この地域のインフラやサービス、そして社会経済的なダイナミクスが抱える問題が、それに拍車をかけている。都市化の進行も大きな要因だ。アフリカ大陸では今のところ、都市住民の割合は全体の43%だが、急増している。毎年、およそ1000万人が都市部に居を移しているのだ。

気候変動に対する適切な適応戦略を取れば、都市の脆弱性を軽減させ、レジリエンス(回復力)を強化できる。それは既に証明された事実だ。

しかし、問題がひとつある。

持続可能な開発を実現させ、貧困を減少させるうえで、都市の気候変動適応戦略が重大な役割を果たすことは、世界的な議題として認識されている。とはいえ、目が向けられるのは、中央政府と地方自治体(地方自治体のほうが目が向けられる程度は少ないが)。市民や市民社会は、補助的な役割にとどまっている。

既に実証されていることだが、住民が参加して主体的に実践してこそ、都市の気候変動適応戦略は効果をより発揮するのである。

では、市民が参加して主体的に実践する流れを作っていくには、どうしたらいいのだろうか。私たちの調査は、サハラ砂漠以南のアフリカにおいて、都市の気候変動適応に向けた市民主導型の取り組みを支援しうる要件とは何かを、machizukuri(まちづくり)という視点を通じて検証した。

「まちづくり」とは、日本語で文字通り「コミュニティの構築」を意味する。市民や住民が、地元の環境に影響を及ぼす問題を自らのものとして考えることだ。

私たちは、アフリカ都市部において、気候変動への適応活動に住民を巻き込んでいくために必要な基本原則が何かを明らかにするため、日本の「まちづくり」成功事例を評価した。その結果、サハラ砂漠以南のアフリカには、市民主導による気候変動適応活動についてのポテンシャルがあることが分かった。

まちづくりシステムに学べば、植林やリサイクルなど、地元で既に実施されている活動をうまく広げるとともに、気候変動適応に向けた新たな活動を見極めることができる。

調査

まちづくりというシステムは、1960年代と1970年代の日本で、市民による環境保護活動から誕生したと考えられている。

このシステムは実質的に、2つの重要なポイントを掲げている。1つは、都市の気候変動適応戦略において、中央政府は市民の役割を優先させなければならないこと。2つめは、国が市民や地元組織、その他の利害関係者とともに積極的に取り組むことで、コミットメントを示さなくてはならないことだ。

まちづくりの研究から、4つの重要な原則が明らかになった。都市の気候変動適応戦略において市民の役割を中心に据えたいと考えるサハラ砂漠以南のアフリカ各国の政府も、考慮することになるポイントだ。

1つめは、支援ネットワークと協力が必要である点。支援ネットワークには、コミュニティ団体や市民社会、地方自治体、企業、研究者や専門家が含まれる。そうした組織やグループが協力し合えば、技術的な支援が強化されるだろう。また、地元の適応能力が拡大し、市民の役割に正当性が与えられる。

2つめは、都市の気候変動適応に向けた計画とプロセスに、既存の市民活動を組み込まなければならないという点だ。これは正当性という面で重要だ。コミュニティと地方自治体や関係省庁との間に信頼や協力体制を構築する際の必須条件でもあるし、価値観も広げることになる。住民は、自分たちの意見や取り組みが重要だと感じるようになるのだ。

3つめは、地元の社会資本を、都市の気候変動適応に向けた市民の活動を支援する方向で活用できるという点だ。都市のコミュニティの中にある強い社会的なつながりや関係性は大変有益なものだ。

その見本として、滋賀県野洲市を挙げたい。野洲市は住民ネットワークのリーダーと協力し、気候変動問題への関心を集めるとともに、ネットワーク内の人々と意思疎通を図った。その結果、興味のある分野別に住民グループが結成されるようになり、地域の森林を復活させる試みや、河川の清掃、リサイクル促進といった多様な環境保護活動が始まっている。

このようなやり方で社会資本を活かせば、共同的な組織づくりも促される。コミュニティが自分たちの活動に対して熱意を持ち続けるようになる。

4つめは、市民が主導する都市の気候変動適応活動が優先される範囲は、リソース、とりわけ資金援助の有無により決まってくるという点だ。一定の資金援助は、そうした気候変動適応活動を持続させるうえで肝要となる。有意義な方法で市民を巻き込む心づもりが政府にあるのなら、活動の持続と成功に必要な資金の少なくとも一部を、積極的に提供する必要がある。

アフリカでのまちづくり

アフリカにもわずかだが、気候変動への適応に向けて、市民参加型の活動が既に行われている都市がある。

マラウイ、ケニア、タンザニア、ザンビアでは、季節的な干ばつとその影響に取り組むための地域ネットワークや住民組織が立ち上がっている。政府がそうした取り組みに着目し、コミュニティと提携するケースもある。政府は技術と資金を提供し、プロジェクトが順調に実行されるよう支援を行ってきた。

こうしたことは、まちづくり、もしくはそのバリエーションが、アフリカの都市でかなりの成果を生む可能性があることを示唆している。アフリカの地では、気候変動適応活動に市民が十分に取り組めるようさまざまな試みが続いているが、日本のまちづくりシステムはその見本となる青写真だ。

市民主導型のアクションは、気候変動という現実に適応しようと取り組む諸都市に、大きな収穫をもたらすだろう。

(翻訳:ガリレオ)

The Conversation

Seth Asare Okyere, Assistant Professor, Division of Global Architecture, Graduate School of Engineering, Osaka University; Matthew Abunyewah, Sessional lecturer, School of Architecture and Built Environment, University of Newcastle, and Stephen Kofi Diko, Adjunct Instructor and PhD Candidate in Regional Development Planning, University of Cincinnati

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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