最新記事
シリーズ日本再発見

NGT48山口真帆さん暴行事件に見る非常識な「日本の謝罪文化」

2019年01月16日(水)17時25分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

日本独特の「謝罪会見」

欧米をはじめ、日本以外のほとんどの国では、著名人や企業が不祥事を起こした場合、報道陣の前に直立して頭を下げるという光景はほとんど見られない。そういったフェーズを経ずに、まずは被害者との示談交渉や訴訟に応じ、その結果をメディアに発表するといったことが、「世間」に対する最も誠意ある態度だというのがグローバル・スタンダードな常識だ。

日本国内でも、外資系企業や外国人のトップが同様の行動をして、「世間」の非難を浴びる場合が多い。私がよく覚えているのは、スイス系企業のシンドラー社製のエレベーターに男子高校生が挟まれ、死亡した2006年の事故の同社の対応だ。当時の日本法人の外国人社長や幹部は、当初「世間」に対する謝罪は一切せず、メディアの前では逆に自社の製品の信頼性の高さを強調した。これに対し、日本のマスコミは盛んに謝罪会見の開催・謝罪コメントを要求した。

この状況を受けて日本の弁護士やスタッフのアドバイスがあったのか、事故から9日後に同社幹部の謝罪会見が開かれた。ところが、当時のケン・スミス社長は5秒間頭を下げたものの、「90度以上腰を曲げて目を伏せる」という日本の常識を打ち破り、目を見開いて周囲をにらみつけるような様子を見せたことから、またマスコミの非難を浴びてしまった。その際のスミス社長の謝罪の言葉は「事実確認に重点を置きすぎたため情報開示が遅れて、遺族や住民の皆さまらにお詫び申し上げます」というものだった。

「謝罪」は自らの過ちを認めるホラー(戦慄的)な行為

シンドラー社の謝罪会見について、シンドラーグループの本拠があるスイスの日刊紙、ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングは、「こうした事故の際に立ちはだかる問題が2つある。1つは日本では人の生命にかかわる技術については他の国と比べて、非常に厳しく完璧さを求められること。もう1つはグローバル化にあっても依然ある文化の大きな違い。記者会見で頭を下げ日本式に謝罪したことをシンドラーの米国の顧問弁護士は、会社が過ちを認めたことになると戦慄(ホラー)を持って受け止めた」と報じている(『swissinfo.ch』)。

今回の山口さんの事件では、「性犯罪の被害者である女性」が謝罪しているという点で、海外の目からはさらに「ホラー」に映ったことであろう。日本のサブカルチャー全般には好意的なスタンスであるはずの『Kotaku』も、一連の経緯とネット上の反応をまとめたうえで、「謝罪は必要だ。しかし、それは彼女からではない」と批判的なトーンの記事を結んでいる。香港英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)も、襲われた側の日本のアイドルが謝罪に追い込まれた件が「日本と世界の人々の怒りに火をつけた」と報じている。

日本のポップカルチャーやアイドル事情に通じているアジアのファンにとっても、今回の件はショッキングだったようだ。「自分がどのように男たちに襲われたかを明かし、彼女を守らなければいけなかった人々が正義を示さなかったからといって、被害女性が謝る必要は全くない。被害者を非難し、傷つけるのはやめて!」――。こうしたツイートが、#justiceforMahohon(まほほん=山口真帆さんの愛称=に正義を)というハッシュタグ付きで広まっていると、SCMPは報じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国側の指摘当たらず、今後も冷静かつ毅然と対応=レ

ビジネス

中国人民銀、13カ月連続で金購入

ワールド

原油先物は2週間ぶり高値維持、米利下げ観測や地政学

ビジネス

仏成長率、今年は少なくとも0.8%に 政府予想超え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中