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シリーズ日本再発見

ママチャリが歩道を走る日本は「自転車先進国」になれるか

2016年10月07日(金)10時45分
長嶺超輝(ライター)

「矢羽根」検証を行う「自転車のまち」宇都宮市

 そんな誤解が蔓延する「自転車後進国」ニッポンだが、変化の兆しはある。そのひとつが、自転車レーンなどの整備に取り組む栃木県宇都宮市。日本一広大な関東平野の北端に位置し、人口50万人を超える中核市である。起伏が比較的少ない地形と、雪や雨が少ない気候の影響で、交通手段としての自転車が市民に広く親しまれている。

 また、毎年10月に宇都宮市森林公園や市街地で開催され、今年で25周年を迎える「ジャパンカップ サイクルロードレース」は、「ツール・ド・フランス」などにも引けを取らない、アジア最高位のサイクルロードレースである。世界トップクラスの選手も参加する大会として、国際的にも注目を集めている。さらには市の中心地にある宇都宮城址公園などで、オフロード自転車競技として、モトクロスならぬ「シクロクロス」も盛んに行われているという。

 2003年から「自転車のまち」を標榜する宇都宮市は、「普段づかいの自転車」と「レジャーとしての自転車」の双方を重視している。

 道路建設課・サイクルシティ推進グループの田﨑和則氏によれば、数字の「8」を自転車の車輪に見立てて、毎月8・18日には、自転車の利用者に対して、警察などと連携しながら交通安全を啓発する街頭指導を行っているという。また、地域密着型のプロサイクルロードレースチームとして活躍する「宇都宮ブリッツェン」も、自転車の安全交通の普及に一役買っている。

 同じくサイクルシティ推進グループの平原健吉氏は、市内で自転車レーンなどを敷設した道路では、自転車に関係する事故が53%減少した実績があると、その安全面での有効性を説く。市が管理する道路においては、2015年時点で21.7キロのレーンが整備されているところ、2020年までに57.7キロまで延伸する計画があるそうだ。

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現在は青色のカラー舗装でベタ塗り(冒頭写真の自転車レーン)せず、車道との境界線のみに使って、経費削減しつつも視認性を確保している(撮影:筆者)

 宇都宮市は、全国に先駆けて「矢羽根」表示の検証も行っている。矢羽根は、国土交通省が新たに策定した道路表示であり、自転車レーンを設置するほどの幅員が足りない道路で、自転車の車道走行を促すために描かれる。

 矢羽根ゾーンは、自転車レーンと違って、自動車の進入や駐停車が禁じられているわけではない。むしろ、車道が「自転車と自動車の共用スペース」である事実を示す。さらに矢羽根には、「自転車は車道の左側を走行しよう」などの交通ルールを、視覚的に自転車利用者やドライバーへ伝え、自然なかたちで誘導する心理的効果も期待されている。

 実際、現場を写真撮影している際には、地域住民の皆さんが自転車に乗って通り過ぎるのだが、自転車レーンに描かれた矢印や、矢羽根で示された向きを、逆走している人は見かけなかった。

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「矢羽根」マークは、自転車レーンを作る余裕のない幅の道に引かれている(撮影:筆者)

 前出の自転車ツーキニスト、疋田氏も「自転車レーンも大切だが、まずは『左側通行』のルールこそを、第一に徹底すべきだ」と力説する。

 幹線道路で、自転車が車道を右側通行していれば、自動車から見れば「逆走」である。かわすことが難しいだけでなく、万が一ぶつかった場合の衝撃も非常に大きくなるため、極めて危険な行為だ。

 疋田氏によれば、住宅地の生活道路でこそ、自転車の左側通行が大切になるという。家屋が密集して見通しの悪い生活道路で、自転車が右側を走っていれば、交差点に差しかかったとき、右から来る自動車や自転車と出合い頭に衝突する危険が高まるからだ。現に、生活道路における自転車関連の死傷事故の発生件数は、幹線道路における件数の倍にのぼる(国土交通省 2010年発表)。

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交差点の中に描かれた「矢羽根」。自転車の進行すべき方向を示しつつ、車も進入可能(撮影:筆者)

【参考記事】もしも自動運転車が事故を起こしたら......こんなにも複雑!

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