最新記事
シリーズ日本再発見

ママチャリが歩道を走る日本は「自転車先進国」になれるか

2016年10月07日(金)10時45分
長嶺超輝(ライター)

撮影:筆者

<自転車が堂々と通れる車道が少ない日本。ヨーロッパ人から見れば、明らかに「自転車後進国」だろう。本来は車道を通るべきなのに、歩道を通るものという誤解が蔓延し、自転車の絡む交通事故も多い。カギとなるのは自転車レーンの整備。その先陣を行く栃木県宇都宮市へ取材に行った> (写真:「自転車のまち」栃木県宇都宮市で整備が進められている自転車レーン)

【シリーズ】日本再発見「日本ならではの『ルール』が変わる?」

 2020年の東京五輪は、各競技会場がそれぞれ離れすぎないよう、できるだけ一定圏内に固めて配置する「コンパクト開催」を売りにしている。そこで脚光を浴びているのが、移動手段としての自転車だ。世界中から五輪競技を観覧に来る外国人の中には、都内を自転車で動き回ろうという人も少なくないだろう。

 また、外国人だけでなく、最近は通勤手段として、あるいは休日の趣味やスポーツとしても、自転車の人気は高まっている。しかし、現在の東京都心に、自転車が堂々と通れる車道は少ない。

 日本の道路交通の歴史は、車道を通るべき軽車両である自転車を「いい加減」に扱ってきた歴史でもあった。独特なスタンダードデザインである「ママチャリ」の発達によって、日本は世界でも屈指の自転車普及率を誇っている。その半面で、交通ルールと現状が全く噛み合っていない実情もある。

『自転車の安全鉄則』(朝日新書)や『自転車はここを走る!』(共著、枻出版社)など自転車交通に関する著作を数多く持ち、自転車通勤をする「自転車ツーキニスト」を名乗る疋田智氏は、こう主張する。「自転車は本来、『歩道を走る資格がない』という事実をもっと広めるべきだ」

 自転車人気が高まるにつれ、その交通に関わるさまざまな問題にも焦点が当たるようになった。なかでも最も議論になっているポイントは「車道か歩道か」だろう。確かに、自転車が歩道を通っていい場合もあるが、「あくまで例外で、緊急避難的なルールだ」と疋田氏は強調する。

 いわゆるモータリゼーションが進み、自動車の交通量も交通事故も急増した1970年代、道路交通法の改正で、自転車が歩道に上がることを一部で許容することになった。車道の交通量が著しく多い場合や、路肩で道路工事が行われている場合などには、例外的に歩道に上がることが許容されたのである。

 また、「自転車走行可」の道路標識がある「自転車歩行者道(自歩道)」であれば、歩行者に混じって自転車も歩道を通って構わない(自歩道でなくても、13歳未満の子ども、70歳以上のお年寄り、身体障がい者は自転車で歩道を通行できる)。

 近ごろでは、車道に近いほうを自転車走行帯として、明確に色分けしている自歩道も増えてきた。だが、その色分けエリアも「自転車専用」ではなく、あくまで歩道には違いない。ルール上は「徐行」を義務づけられるのだ。

 現在の日本では、「自転車は車道、やむをえない場合に歩道」という原則が、例外と逆転してしまっている。道路を横断する場面で、横断歩道のそばに「自転車通行帯」が描かれていることが多いが、「この自転車通行帯も必ず歩道に繋がっていて、自転車は歩道、との誤解を与えている」と、疋田氏は話す。

japan161007-A.jpg

横断歩道のそばにある自転車通行帯が「誤解を与えている」と疋田氏 tupungato-iStock.

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中