最新記事
シリーズ日本再発見

開発に10年かけた、シャンパン級のスパークリング日本酒

2017年02月18日(土)15時33分
安藤智彦

シャンパン同様に「瓶内二次発酵」させ、にごりのない透明な日本酒にするのは難易度が高いためだ。また、シャンパンでは発酵を促すために糖を添加するが、日本酒でそれを取り入れてしまうと税法上はリキュールに分類されてしまう。

クオリティはシャンパン級の日本酒、そこにこだわる戦いは10年間、700回の試作に及んだ。永井自身フランスに渡り、本場シャンパーニュでも研究した。

永井酒造のスパークリング日本酒「MIZUBASHO PURE(水芭蕉 ピュア)」が完成したのは2008年のこと。グラスの底から真っ直ぐ立ち上る細やかな泡、アルコール度数を13度に抑えたすっきりとした飲みくち。べたつきやクドさは感じられず、旨みと酸がシャンパンのように口内に広がる。それでいて、しっかりと日本酒の余韻は残る。

国内外のシェフやソムリエにもその評判は伝わり、京都の吉兆、フランスやスペインの三ツ星レストランでも食前酒として採用されるに至った。

japan170217-sub1.jpg

Photo: 永井酒造

もっとも、フランス料理と向こうを張る、ワインのような日本酒のラインナップを考えれば、食前酒の完成はまだスタートにすぎない。その後、永井酒造は肉料理用の熟成日本酒「VINTAGE SAKE」やデザート用に濃厚な甘さで仕立てた食後酒向けの「DESSERT SAKE」をリリース。料理一皿一皿に合わせた日本酒を提案する「NAGAI STYLE」を確立した。

自らの目標としてきた、日本酒の可能性を広げる点では一定の成果を収めた永井。ただ、日本酒業界全体で見れば、それは文字通りまだ点にすぎない。日本酒の可能性や魅力を広めていくには、これを面にして1つの型に仕上げていく必要がある。

永井は昨年11月、数年前から温めてきた日本酒振興のための組織「awa酒協会」を立ち上げた。水芭蕉Pureと同様の製法で作られたスパークリング日本酒「星の輝(かがやき)」を手掛ける山梨県の山梨銘醸、八海山で知られる新潟県の八海醸造など6蔵元と連携(今年2蔵が加わり現在は計9蔵)。シャンパン方式に準拠したスパークリング日本酒を認定・普及させるための組織となる。

awa酒協会参加の蔵元のうち、スパークリング日本酒を発売済みなのは4蔵に留まる。それだけ開発の難易度が高いということでもあるが、今年4月には残る蔵元も合わせ、全蔵元から認定スパークリング日本酒がお披露目される予定だ。

世界に広がる和食文化とともに、日本酒も飛躍できるのか――。スパークリング日本酒の成否が、その一翼を担うことになるかもしれない。

japan170217-sub2.jpg

前列右から2番目が永井酒造の永井則吉(撮影:筆者)

japan_banner500-8.jpg

japan_banner500-7.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マスク氏率いるX社、ヘイトスピーチ対策法阻止求めN

ビジネス

ゴールドマン、アジア投資銀行事業再編でシェア拡大目

ビジネス

中国、デジタル元の国際利用促進へ 多極通貨システム

ワールド

シンガポール成長率予想下振れ、追加緩和実施へ=MA
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 10
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中