コラム

鍵田&佐藤のフラメンコ世界「愛こそすべて」

2012年12月13日(木)20時19分

 以前に弊誌特集『世界が尊敬する100人』にも登場した鍵田真由美・佐藤浩希が主催するフラメンコ舞踊団「ARTE Y SOLERA(アルテ・イ・ソレラ)」の公演を先日見に行った。公演タイトルは「愛こそすべて~完全版~」で、「スペインの歌謡曲」に合わせて踊るというちょっと面白い趣旨だ。

 どの歌も「愛」がテーマ。「私は彼の人生の一部で、彼は私の影だった♪♪」とか、「君との思い出は日に日に甘くなっていく♪♪」とか、こてこての歌詞に合わせての群舞あり、ソロありの充実の1時間半。最初は美空ひばりやテレサ・テンばりの世界にすんなり入り込めなかったが、途中、鍵田の明るいソロあたりで一気に引きこまれた。

愛こそ2.JPG愛こそ3.JPG_.jpg  ⓒ川島浩之


 佐藤の陽気な人柄、鍵田の凛としたたたずまい――正反対の雰囲気を持つ2人だが、その「陰と陽」の感じが舞台の上でぶつかり合い、独特のエネルギーを放っている。フラメンコと能、フラメンコとジャズといった独創的なコラボレーションを実現してきた2人(もともと鍵田が佐藤の師匠で、今は夫婦である)は互いに支え合い、刺激し合って、枠にとらわれない表現を続けながらこれからも日本のフラメンコ界を引っ張って行ってくれそうだ。

 個人的にバレエもよく見に行くが、あちらは圧倒的な形式美を大切にする芸術。例えば、トゥシューズで立ったときの甲の出方とか、「膝を入れる」立ち方とか、胸の閉じ方とか、とにかく美しく見せるために細かい点まで重視する。そして体の重みを感じさせないよう、妖精のように宙を舞う(「地に足のつかない」と言おうか)。現実を忘れさせてくれる、夢のような世界だ。

 それに対してフラメンコはどっしりと大地に足をつけ、肉体の奥底からわき上がる抑えきれない感情をコントロールするような踊り。型にはまらず、一人ひとりのそれぞれ違う「生」を表現するようなものだ。音楽もフラメンコギターは別にして、カンテ(歌)やパルマ(手拍子)、サパティアード(靴音)と、人間の体から発せられる音が主役になると言っていい(ギターが加わったのは19世紀になってからのようだ)。その力強さが、たまらなくいい。

 今回、会場に白髪交じりの男性の姿が目立ったのが印象的だった。バレエでは絶対にあり得ないことだ。そのあたりもフラメンコ独特の人間くささ、泥くささゆえなのだろう。
 
 「愛こそすべて~完全版~」は、来年2月22日~3月9日にスペインのヘレスで開催される第17回フェスティバル・デ・ヘレスに招待公演として参加するそうだ(スペイン語の公演タイトルは『iAMOR, AMOR, AMOR!』)。「ARTE Y SOLERA」は04年に外国人として初めて正式招待され、今回が2度目の出場になる。

 日本での来年の公演はまだ発表されていないが、12月20日(木)~26日(水)には舞踊団を撮った川島浩之の写真展が開かれるそうだ。興味のある方は是非。
 
 バレエで言えば、現在公開中の映画『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!』がとてもいい。若者向けのバレエコンクールの舞台裏を追ったもので、登場する子供たちのすごさはもちろんだが、親の協力ぶりやエゴ、紛争国や途上貧しい国の厳しい現実といった世界情勢も垣間見せる、深みのあるドキュメンタリーに仕上がっている。バレエファンでない人にも、かなりお勧めです。

――編集部・大橋希


このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story